tkclzh19-[1]


右京「346プロダクション?」


224: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:23:32.79 ID:wBmLXEnwO
早苗「…あー…今日も疲れたわぁ…」

『♪』

早苗「?…瑞樹ちゃんかしら……げっ…」

『杉下係長』

早苗「…何気に初めて電話が来たわね……もしもし?」pi


早苗「あー…うん。お疲れ様。そっちはどうだった?」


早苗「あ、そ。まあ上手くやれたんなら良いわ」


早苗「で、何よ。そんな事でかけてくるような人間じゃないでしょ」


早苗「…え、まあ…そういう知り合い?…それならいるけど…」


早苗「…会いたいって…今何時だと思ってんのよ」


早苗「…どうせロクでもない事に首突っ込んだんでしょ。嫌よ。巻き込まれたくないし」


早苗「…それに、杉下係長が何をしようとしてるか、なんとなく分かるわよ」


早苗「やめときなさい。ホント」


早苗「…………いや、アタシが言って止まるならもう止まってるわよね」


早苗「とりあえず何があったのか、話してもらうわよ。そっちの奢りで」


早苗「ん。はい」pi

225: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:24:33.69 ID:wBmLXEnwO
早苗「…あー…ねぇ」

「はい?」

早苗「プロデューサー君に伝えといて。今日は直帰だからって」

「良いですけど…そろそろ連絡先交換しといて下さいよ」

早苗「だって過保護過ぎるんだもん。目つき悪い癖にアンバランス過ぎでしょあの子」

「まあ、見た目は確かに怖いですけど…良い人じゃないですか」

早苗「そうだけどね。あの子前にすると見下げられる感じがしてヤなのよ。背めちゃくちゃ高いし」

「それで?…あの万年係長からは何て連絡があったんですか?」

早苗「さあ…ね。聞いてたの?」

「…ちょっとだけですけど」

早苗「なら忘れなさい。もし会社の人間に告げ口したら即外してもらうから」

「…えっ!?シメるとかじゃなくて!?」

早苗「何か問題でもある?」

「いや、まあ…言いませんけど…どうしてあんなおじさんに?」

早苗「変に勘繰るんじゃないわよ。そういう関係でもないし」

「…まあ、私は早苗さんのスケジュール管理が仕事ですから。その後はどうもしませんけど…」

早苗「勘繰るなっつの」ペシ

226: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:25:29.79 ID:wBmLXEnwO
「…」


「…あの子ったら…一体何処に…」


「…」


「…いえ、そんな筈はないわ。だってあの子はちゃんと成績トップなんだもの」


「この世は一番頭の良い子こそが一番偉いのよ。だからきっともう…」


「…そうよ。あんな不良達は幸子に相応しくない」


「だから、もっと勉強して、偉くなって…そうすればきっと…」


「…」

『PM9:00』

「もう家庭教師が来る時間じゃない…。一体何をやっているのよ…」

『すいません』ピンポーン

「…?はーい。今出ますねー…」

227: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:26:17.08 ID:wBmLXEnwO
『夜分遅くに申し訳ありません』

「…?失礼ですが、どなたですか?」

『ああ、申し遅れました。私特別臨時家庭教師の杉山と申します。こちら輿水さんのお宅で間違いございませんか?』

「まあ!それはそれは申し訳ありません…はい!今開けますので…あ。でも…今幸子が…」

『ええ。そのことも兼ねてお話を…』

「?……あら、幸子!!貴方何処を…!」

『まあまあ。今回は少しお話をしたいだけですので…』

「…分かりました。とりあえず上がってください…」ガチャ



「どうもありがとうございます。それでは輿水さん。参りましょう」

幸子「…はい」

228: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:27:45.04 ID:wBmLXEnwO
「幸子…貴方今日だけでどれだけ迷惑を…」

「輿水さんのお母さん。実はですねぇ。今回彼女がこうなったのには理由があるんですよ」

「…?」

「ええ、僕がここに来る途中、ご老人をお世話している彼女を見ましてねぇ…」

「…あら。幸子。本当なの?」

幸子「…は、はい…」

「そのご老人の方に尋ねたところ、腰を痛めて道端でしゃがんでいたところを彼女に介抱してもらっていたと。その上荷物を持って遠い家まで運んでもらえたと仰っておりました…それはそれはご機嫌な様子で…」

「…でも、それだけでは塾をサボったり家に帰らない理由にはなりませんね…」

「ええ。何にしても無断で欠席をするのはよろしくないことですが、ここは一つ、彼女の善行を認め、今日の事は水に流してもらえませんかねぇ?」

「…幸子」

幸子「は、はいっ!」

「本当かしら?」

幸子「は……は、はい…」

「そう…そうなの…」

「勿論僕も今日は勉強を教えに参ったのですが、いかんせん彼女がほとほと疲れていらっしゃるようで…このままでは恐らく勉強も捗りません」

幸子「…」

「…」

「なにしろ半日もの間人助けをしていらっしゃったんですから…ですから今日のところはゆっくり休んでいただいて、また後日連絡を頂ければと思いまして…ええ。勿論お代は頂きません」

「…そうですか…先生がそう仰るのでしたら…そうですね…」

「実はですねぇ。あまり短期間で詰め込み過ぎるのは科学的に考えるとよろしくないんですよ」

幸子「…!」

「…何ですって?」

「ああ。気を悪くされたのでしたら申し訳ありません。ですが知識習得の一過性はテスト後折角覚えた知識を忘れてしまう可能性もあるんです。勿論学習方法は貴方にお任せしますが…」

「…」

「それに輿水さんは僕が担当している生徒に比べとても聡明な方だとお見受け致しました。これは普段からのお母さんの教育が素晴らしいのでしょうねぇ」

「…幸子」

幸子「は、はい…」

「…今日は早く寝なさい。それと明日はお母さんが教えるわ。いつもと違う環境なら新鮮な気持ちで出来るでしょう?」

幸子「…はい…」

「それが良いかもしれません。しかし輿水さん。来週からはちゃんと塾にも行くことですよ?」

幸子「はい…」

「それではお邪魔しました。お茶、とても美味しかったですよ」

「いえ。此方こそ幸子を送って下さってありがとうございました」

229: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:28:48.61 ID:wBmLXEnwO
右京「…」バタン

友紀「…」

右京「お待たせしました。それでは参りましょう」ガチャ

友紀「参りましょう、じゃないよ…」

右京「はいぃ?」

友紀「よくもまあ、嘘八百並べて帰ってきたね。怒られなかったの?」

右京「ええ。家庭教師が臨時ということが救いでした」

友紀「…いくら幸子ちゃんを助けるからって、流石にやり過ぎじゃ…」

右京「恐らく彼女の母親は、先程の事を話しても信じないでしょう」

友紀「お婆ちゃん助けたって方が信じないよ…」

右京「いえ。そういうことではありません」

友紀「?」

右京「彼女の母親は、輿水さんの良い部分だけを信じるようです」

友紀「…都合の悪い話は聞かないって事?」

右京「そうとっていただいて構いません」

友紀「…でも、今でも信じられない。あんな事が実際にあるなんて…」

右京「僕も現場を見たのは初めてですねぇ」

友紀「…酷いよね。あんな事…」

右京「ええ。とても」

友紀「…これから、どうするつもり?」

右京「どうするとは?」

友紀「とぼけないでよ。さっき早苗さんに電話してたでしょ」

右京「そうですねぇ…」

友紀「…ダメだよ。変な事したら…」

右京「かといって、このまま彼女を見過ごすのはあまりにも酷です」

友紀「だって、もしあの親が苦情出したら、今度は…」

右京「そうならない為に、片桐さんに協力を仰ごうかと」

友紀「…」

230: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:30:07.26 ID:wBmLXEnwO
幸子ちゃんが、いじめの被害にあっていた。

背景は知らないけど、恐らく同じ塾の人達。

幸子ちゃんが不意にこぼした台詞から察するに、あの子達は幸子ちゃんからお金の無心をしていたようだった。

そしてアタシ達が駆けつけ、ようやく元に戻ったかと思うと、今度は親の事で暗くなっていった。

その時、右京さんがやったこと。

まず、紗枝ちゃんを女子寮に帰し、幸子ちゃんに家庭教師のキャンセルをさせた。

その後、自分がその家庭教師になりすますことであの場を収めた。

…でもこんなの、一時的なもの。

来週になれば、幸子ちゃんはまたあそこに通わなければならない。

「…」

またあの子達が待っているんだろう。

アタシ達もいつでも駆けつけられるわけじゃないのは当然知っている筈だから。

「…」

もし、仮に右京さんが何かしようとしているなら。

今こそ、アタシは止めなきゃならない。

「…」

…でも、止めていいのだろうか。

もし、ここで止めたとして、あの子はどうなるのか。

これからも常に怯える生活を送るのか。

…そう考えると、口が動かなくなる。

231: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:31:04.87 ID:wBmLXEnwO
「…」

分かってる。
今、右京さんは仕事そっちのけで幸子ちゃんを助けようとしてる。

…でも、それを止めたくないアタシもいることは確か。

「…!!」

ジレンマ、というやつなのか。

ダブルバインドというやつなのか。

こんなの、どうしていいか分からない。

ただ、これだけははっきり言える。

「…」

右京さんがやろうとしていることは、正しくない。

蛇の道は蛇。

まさにそれだ。

「…矛盾してるよ…」

「何か仰いましたか?」

「…何も」

…聞こえてるくせに。

232: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:32:32.33 ID:wBmLXEnwO
「…」ガラッ

幸子「zzz…」

「…幸子…」

幸子「zzz…」

「貴方は、立派な人間になるのよ」

幸子「zzz…」

「そうして、もっと見返してやるの。あの酷い子達に…」

幸子「zzz…」

「大丈夫。貴方は私が守ってあげる」

幸子「zzz…」

「あの時も、守ってあげたんだから…」

幸子「zzz…」

「貴方に取り付く悪い子は、みんなお母さんが追っ払ってあげる」

幸子「…」

「…どんな事を、してもね…」

幸子「…!」ビクッ

「…だから、安心して寝なさい。……お休み、幸子」

幸子「…」

「…ちゃんと、明日もお勉強するのよ」

幸子「…」

233: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:34:14.00 ID:wBmLXEnwO
PM10:00 某居酒屋

早苗「…ん!あ、こっちこっち」

右京「どうも。お疲れ様です」

早苗「ん。…あれ?杉下係長の娘達は?」

右京「お二人とも帰りましたよ」

早苗「…ふーん…人払いはOKってこと…」

右京「…」

早苗「…で?なんたっていきなり探偵の知り合い?」

右京「警察の方に調べてもらうわけにもいきませんから」

早苗「探偵も同じよ」

右京「おやおや…」

早苗「…」

右京「…」

早苗「そうやって暴走して、またアイドル達の人生ダメにするつもり?」

右京「はいぃ?」

早苗「とぼけてんじゃないわよ。前の事件を忘れたとは言わせないわよ」

右京「…」

早苗「折角スカウトした二人を、ダメにするなんて許さないわよ」

右京「…」

早苗「アンタの本業はプロデューサー。探偵でも警察でもないの」

右京「…ええ」

早苗「だから協力出来ない。分かるでしょ?」

右京「…」

早苗「アンタには最後までやり通して欲しいのよ。あの子達の事を…」

右京「…」

早苗「だから冷静になって自分の仕事と向き合って。まずあの子達の事に目を向けて」

右京「…手を伸ばせば、届くかもしれない。その時、伸ばさずにはいれない」

早苗「…」

右京「僕は、そういう性分なんですよ」

早苗「…」

右京「…」

早苗「…もう、これっきりにしてよ?」

右京「ええ。よろしくお願いします」

234: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:36:14.81 ID:wBmLXEnwO
3日後

友紀「…おはよー…」

右京「おはようございます。寝不足ですか?」

友紀「ん…」カタン

右京「…」

友紀「…」

右京「…」

友紀「…で?いい加減何しようとしてるのか教えてくれないの?」

右京「…何でしょうねぇ」

友紀「ダメだよ。話さなきゃ」

右京「おやおや…」

友紀「アタシだって、もう片棒担いじゃったんだから。聞く権利はあるでしょ」

右京「…そうですねぇ…」

友紀「…」

右京「…全てが終わった後にでも、話しましょうかねぇ」

友紀「えええ…この空気で断るの…?」

右京「話せば君は動きますから」

友紀「…」

右京「…」

友紀「…右京さんは、幸子ちゃんの為に人生棒に振るつもり?」

右京「どうですかねぇ…場合によっては…」

友紀「…それで、あの子が喜ぶと思うの?」

右京「僕の考えが正しければ、今彼女の心身は疲弊しきっています」

友紀「…」

右京「そうした者が選ぶ最終的な行動。僕は何度か目にした事があります」

友紀「…あの子は、そんなに弱い……」

右京「少し関わっただけですが、とても心の弱い方だと思います」

友紀「…でも、それで右京さんが…」

右京「残念ながら、この世に人の命より価値のあるものなどありません」

友紀「…」

右京「僕は今日、予定が入っています。申し訳ありませんが代行を引き受けてくれた方がいらっしゃいますので…」

友紀「…ホントに、ちゃんと話してよ…?」

右京「ええ」

235: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:37:20.83 ID:wBmLXEnwO
「…」

右京さんが、早苗さんと話してから約3日。

右京さんは相変わらず何も話してはくれない。

今日も予定があるからと半休を取り、他の人に引き継いでもらっていた。

「本日は杉下係長が緊急の予定があるとのことですので、よろしくお願いします」

「あ、うん。そんなかしこまらなくても…」

「いえ…それと、今日も頑張りましょう」

…まさか、早苗さんのところのプロデューサーとは思わなかったなあ。

「えっと…今日の予定は…」

「○時に○○スタジオにてCM撮影が入っております」

「あ、ありがと…何か右京さんみたい…」

「…杉下係長から学べることは、沢山あります。誤解されてる方も多いかもしれませんが…」

…この人、良い人…なのかな。

「…あ」

「はい。何でしょうか?」

「早苗さんと瑞樹さんは?」

「お二方は、ご自分の車で移動しているようです。私が着いていると力を発揮出来ないと…」

「…あー…」

確かに、あの人達…この人とは合わなそう…。

首に手をやる仕草をし、ほとほと困っているという顔をする彼を見てそう思った。

236: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:39:07.92 ID:wBmLXEnwO
右京「…」

「…あのー…」カランカラン

店員「いらっしゃいませー。お一人様ですか?」

「いえ、待ち合わせを…あっ」

右京「すいません。僕と待ち合わせしていたんですよ」スッ

店員「あ、そうでしたか。…ご注文は…?」

「ええと…ホットコーヒーを…」

店員「かしこまりましたー」

「…」ガタッ

右京「…」

「…」

右京「はじめまして。杉下右京と申します」

「はじめまして。輿水幸子の父親です」

右京「ええ。そう聞いております」

「…話は聞いています。何やら大変な事になっていると…」

右京「ええ。本当に」

店員「お待たせしましたー。ホットコーヒーです」

237: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:41:15.17 ID:wBmLXEnwO
…。

「元々、幸子の面倒を見ていたのは私でした」

右京「…」

「…少なくともその当時は明るく、普通の子供でしたよ」

右京「…」

「しかしその当時から私と妻の幸子の教育方針は対立しており、私に隠れて幸子へ家庭教師をつけたり、習い事をさせたり…」

右京「…」

「元々あの子は頭が良かったのでそんな必要は無いと思っていたのですが…妻は常に一番を取らせると…」

右京「…」

「おまけにアレはとにかくヒステリック持ちで…見てください。この腕…」

右京「切り傷ですねぇ。それもとても深い…包丁ですか?」

「ええ。とにかく自分の思い通りにならなければ暴れる。それを毎日毎日やられていれば…別居したくもなりますよ」

右京「…」

「…勿論幸子の事は心配してましたが…まあアレは幸子には手を出しませんから」

右京「何故、そう思うのですか?」

「自分の作り上げた作品だからですよ。塾に通わせ、習い事もさせ…そんな手塩にかけて育てた作品を傷つけはしないんです」

右京「…作品、ですか…」

「…あ、勿論私はそんな事思っていませんからね!?」

右京「ええ…」

「…しかし、私は違う。私に対しては敵意を剥き出しにしてくる。このままじゃいつか殺される。そう思って逃げ出したんです。幸子を置いて…」

右京「そうですか…」

「今、私とアレの繋がりは膨大な養育費、ただそれだけ…」

右京「…」

「…しかし、今の幸子の様子を聞くと…」

右京「…」

「…あの子は…」

238: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:42:47.88 ID:wBmLXEnwO
右京「彼女は、とても頭の良い方です」

「…ええ」

右京「その中でも特に目を見張るものは、空間認識能力」

「…」

右京「彼女は今現時点で何が起こっているのか、そしてそれの原因、それをどうにかする為の措置を瞬時に感じ取れます」

「…」

右京「そして彼女は、今自分が出来る最善の選択をした」

「…それが…」

右京「…自我を捨てる」

「…」

右京「そうすることで、母親の感情の起伏を最低限に抑え、いじめのダメージも抑えた」

「…」

右京「しかし、今。ここに来てそれが限界を迎え始めています」

「…それは…」

右京「必死にもがいているんです。抜け出そうと。この狭い牢獄から」

「…だから、助けを求めたんですね」

右京「恐らく、そうなのかもしれません」

「…」

右京「貴方がもし、彼女を大事に思っているのでしたら…」

「…」

右京「行動を起こすべきです。直ちに」

「…」

右京「彼女はまだ、自分を持っています。しかし一刻の猶予もありません」

「…私は、出来るでしょうか?」

右京「…」

「…今更…父親面など…」

右京「出来る、出来ないではありません」

「…」

右京「やるか、やらないかです」

「…やるか、やらないか…」

右京「ええ」

「…やるか……やらないか…」

239: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:44:09.27 ID:wBmLXEnwO
「…」

今日、一人での仕事が終わった。

「…」

…結局、今右京さんは何をやってるんだろう。

…アタシには、全く分からないことをやってるんだろうなぁ。

「姫川さん、本日は直帰でしょうか?」

「ん…いや、とりあえず…事務所で」

「かしこまりました」

何だか、アタシだけ置いてけぼりにされてる気がする。

それはアタシ達を巻き込みたくないという右京さんの意思なのかもしれないけど。

…でも何だか、面白くない。

「…」

初めて会った時は、凄い人だと思った。

自分よりも背の高い怖そうな人をヒョイとねじ伏せて、捕まえて。

巧みな話術でアタシを勧誘してきた。

でも、最近は幸子ちゃんにかかりっきりだ。

…右京さんにとって、アタシはもう、端に置かれてる人形みたいなものなのかな。

「…私の意見を、言ってもよろしいでしょうか」

「え…あ、うん。どうしたの?」

「本日のお仕事、大変良かったと思います」

「あ、うん。ありがと…」

「ですが、あれは貴方の、本当の笑顔…だったのでしょうか?」

「…え?」

「…私には、そうは見えませんでした」

…笑顔。

そういえば今日、あんまり笑ってなかった気がする。

「…ごめん。次から気をつける」

「…もし、何かあったのでしたら、私で良ければお話してみてください」

「…えー…っと…」

「杉下係長の、事だと思いますが…違いますか?」

「…もしかして、アタシって顔に出やすい?」

「…それもまた、貴方の長所かもしれません」

…あはは。

またやられちゃったぁ。

240: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:45:12.79 ID:wBmLXEnwO
友紀「…まあ、何と言うかさ…新しい人新しい人ってね、どんどんかかりっきりになっちゃって…」

「…」

友紀「…おかしいなあ。嫉妬してるわけじゃないけどさ」

「…」

友紀「だってさ、アタシ、右京さんの相棒だって、瑞樹さんも言ってくれたのに…」

「頼りにされていない、そうお考えですか?」

友紀「うん。そんな感じ」

「…そうでしょうか」

友紀「だって、他の人に任せるって…アタシなんてどうでもいいみたいじゃん」

「頼りにしているからこそ、1人でも良しと判断したのではないでしょうか」

友紀「だって…今日だって…」

「私が頼まれたのは、運転のみです」

友紀「…」

「姫川さんは、1人でもちゃんと仕事が出来る方だと、そう仰っていました」

友紀「…ホント?」

「ええ。貴方が杉下係長から心から頼りにされている、何よりの証拠です」

友紀「…もう…」

「…」

友紀「…口で言わなきゃ、分かんないよ…」プクー

「…」

241: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:46:33.98 ID:wBmLXEnwO
翌日

友紀「おはよー!」

右京「おはようございます。昨日はちゃんとお仕事が出来たようで何よりです」

友紀「あ、聞いたの?」

右京「ええ。褒めていらっしゃいましたよ?」

友紀「…変な気遣っちゃって」ボソ

右京「どうされましたか?」

友紀「何でもない!」

右京「ところで今日、君は午前のレッスンが終わってからのスケジュールは空いていますか?」

友紀「え?あ、うん。空いてる…けど…?」

右京「それは良かった。少し君の力を貸して頂きたいのですよ」

友紀「え?…あ、アタシの力…?」

右京「ええ。恐らく君が適役かと」

友紀「…ホント?変にご機嫌取ろうとしてない?」ジロッ

右京「無理なようでしたら他の方に頼みますが」

友紀「分かったから!行く!行きます!!」

右京「助かります」

…。

そしてこの後、アタシは今年これ以上のものはないってくらい驚愕した。

右京さんがアタシを連れていった場所。

そこはただの喫茶店。

そう、ただの喫茶店。

安めのコーヒーに、トースト。

子供でも通えるくらいの空気感。

…なのに。

それは今のアタシには、混乱を招く一手にもなっていた。

242: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:47:24.97 ID:wBmLXEnwO
「…」

そこに座っていたのは、この間幸子ちゃんをいじめていた3人の中のリーダー格の子。

…右京さんがアタシを呼んだのは、恐らく通報を避ける為。

つまり、いるだけで良し。

…。

…ま、いっか。

これで大体分かるわけだし…。

243: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:48:46.73 ID:wBmLXEnwO
店員「ご注文をどうぞー」

「…」

右京「お好きな物を頼んで構いませんよ?」

「…クリームソーダで…」

右京「僕はミルクティーを」

友紀「アタシはコーラで…」

店員「かしこまりましたー」

「…」

右京「本日は来て頂きありがとうございました」

「…」

友紀「君って、この間…」

「…悪いのは、幸子ちゃんだよ…」

友紀「…!お金を無心してたンムググ…」

右京「今日はですねぇ。君達と輿水さんの間に何があったのかを聞きたかったんですよ」

友紀「ンムグググ…」

「…塾の場所を言ったのは、幸子ちゃんなの?」

右京「ええ」

「…そうやって、大人に頼って…」

友紀「…?」

「悪いのは幸子ちゃんなんだからね!私らはただ仕返ししただけ!」

友紀「…えっ…?」

右京「…」

244: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:49:50.36 ID:wBmLXEnwO
右京「仕返しをしただけ。…それと今回の件、関連性は…?」

「…アンタに言ったって、分かんないよ。どうせ幸子ちゃんの味方なんだから」

右京「味方かどうかはともかく、こういう時お互いの意見を聞くことは何よりも大事だと思いますがねぇ?」

「…」

友紀「自分達が悪くないってなら、弁明しないとダメだよ。悪いって思われたままで終わるよ?」

「そんな事分かってるよ。だけど…」

右京「信じる、信じない。それはともかく。まず話してみることが重要です」

友紀「うん…そうだよ」

「…」

右京「輿水さん個人が、あなた方に危害を加えたのでしょうか?」

「…」フルフル

右京「でしたら…」

「…」

右京「輿水さんの、お母さんですか?」

「…」

友紀「え…」

「…」コク

友紀「…えっ?」

245: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:51:03.44 ID:wBmLXEnwO
店員「お待たせしま…したー…ミルクティーと、コーラと、クリームソーダ…です。ど、どうぞごゆっくりー…」

「…」

友紀「う、右京さん。今の…どういうこと?」

右京「そのままの意味です」

友紀「…だ、だって…だよ?それ……普通に犯罪…」

「証明出来ないよ」

友紀「?」

「…元々、ウチの塾での一番は、幸子ちゃんじゃなかったんだ」

友紀「…」

「幸子ちゃんは二番で、その子が一番。…それでまあ、ウチの塾は毎月一回必ず授業参観もどきみたいなことをやるんだよね」

友紀「うわー…」

「…でさ、その授業参観もどきが終わった後にね、その子塾の階段から足を滑らせて落ちちゃってさ。全治2カ月だって」

右京「…」

「偶然かなって思った。だけど、おかしいんだよね」

友紀「?」

「…階段にさ、ダンボールが落ちてたんだ」

友紀「…風とかじゃ?」

「そんな強くなかったよ。よく分かんないけど、何故かその階段に、まさに踏めって感じで落ちてたの」

右京「誰かが故意に置いた、と?」

「…うん」

友紀「それが、幸子ちゃんのお母さん?」

「うん。…笑ってたんだ」

友紀「え?」

「…あの子が滑り落ちて、みんなが心配してる時、一人だけニヤニヤしてた」

右京「…」

「みんな噂してる。あの人がやったんだって」

友紀「…」

右京「…お金の無心をしたのは…」

「治療費だってあるんだよ。…でもあの人が認めるわけがないから…証明出来ないし」

友紀「幸子ちゃんを介せば、何らかの形でってこと?」

「…うん。…っていうよりも、ただあの子の親のせいでってのもあったから…」

友紀「だからって…」

「あの人、いつも凄く高そうな服着てて、化粧も、車とかも…だから…」

右京「…」

「…」

246: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:52:04.82 ID:wBmLXEnwO
右京「話は分かりました」

「…」

友紀「…これって、どうにかなるもんなの?」

右京「…未必の故意を証明することは、非常に…いえ、無理と言っても良いでしょう」

友紀「み、みひ…何?」

右京「友達を大事にしたい君達の気持ちも分からなくはありません」

「…」

右京「しかし、君達のやっていることは仕返しではありません」

「…」

右京「思春期の一人の女の子の精神を著しく傷つける、ただのいじめですよ」

「…」

右京「幸子さんは今、母に怯え、君達にも怯えています」

「…」

友紀「…軽い気持ちでやり始めたなら、もうやめてあげて」

「…」

友紀「幸子ちゃんは、何も悪くないでしょ?」

「…うん」

右京「…ならば、もう彼女を責めることはありませんね?」

「…うん」

右京「でしたら、次来た時は暖かく迎え入れてあげてください。それだけでも彼女は救われます」

「…うん」

247: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 21:53:01.34 ID:doTw/7eSO
どのタイミングでプルプルするか気になるなぁー しかしややこしい事態だ

248: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:53:09.17 ID:wBmLXEnwO
その後、もう二度と幸子ちゃんに酷い態度を取らないことを約束させ、店の前で別れた。

こっちに向かって遠慮がちに手を振るあの子は、本来は優しい子なのかもしれない。

…だけど。

「右京さん」

「なんでしょうか?」

「…どうするの?あの子達の事は終わったとしてさ…」

「そうですねぇ…」

「その、あの人が原因で幸子ちゃんが周りから孤立してったんでしょ?じゃあほっとくわけには…」

「ええ。放っておくわけにはいきませんねぇ」

「…でもどうやって?」

「この数日間、僕は輿水さんと様々な事をやっていました」

「…あ、ようやく教えてくれるの…」

「…そうですねぇ…中身も見えたことですし、もう良いでしょう」

…。

そして、アタシが聞いた事は。

これまでにない程、あの母親にダメージを与えることが出来るだろう最初で最後の、最強とも言える一手だった。

249: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 21:54:06.54 ID:0K3LCHHUo
もうこれ只の相棒じゃねーかいいぞもっとやれ

250: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:54:17.66 ID:wBmLXEnwO
「…」


「…」


「…何よ、これ…」

『離婚届』

「…何なのよ、これは…」


「…ふざけるんじゃないわよ!!」ガシャアン


「あの人…まさか…」

『すいません』ピンポーン

「…」

『少しお話ししたいことがあります』

「…この声、何処かで…」

『それと、謝らなければならないことがあります』

「…今出ますので…」

『ああ、それはどうも』

「…」


「…」ガチャ

右京「どうも」

「…貴方は、確か…家庭教師の…」

右京「いえ。本当は家庭教師ではないんですよ」

「…え?」

右京「申し遅れました。僕は346プロダクションでプロデューサー業をさせてもらっている、杉下右京という者です」

「…何ですって?」

右京「そして、用があるのは僕だけではないんですよ」

幸子「…」

「…」

「…!…あなた…それに、幸子まで…!?」

251: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:55:25.16 ID:wBmLXEnwO
「…」

今、一つ屋根の下で、とても重苦しく、ピリッとした空気が流れている。

「…」

幸子ちゃん、幸子ちゃんのお父さん。
そして幸子ちゃんのお母さんが対面して座り、アタシ達はそれをじっと眺めている。

ここに来て数分が経過しているけど、今だ誰一人口を開かない。

「…」

動揺と、苛立ちを隠せないのか指で机を叩き続ける幸子ちゃんのお母さん。

その視線の先には、先に郵送で送られてきたのだろう離婚届。

それだけならこの人にとっては何てことないのかもしれない。

けれど、この椅子の座り方を見れば一目瞭然。

「…」

自分の隣に来る筈だと思っていた娘が、自分と対面している。

それが何を表すのか。

…その現実が、彼女には受け入れ難いのかもしれない。

「…そこにサインをしてくれ。話はそれだけだ」

「…いきなり、どういうつもり?」

今まで見下していた夫からの突然の通告。

あからさまな幸子ちゃんの態度。

本来こんなこと、子供の目の前でやるべきではないのかもしれない。

けど、今のこの3人にはどうでもいいことなんだろうなぁ。

252: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:56:56.19 ID:wBmLXEnwO
「…君の教育は、幸子の為にならない」

「…よく言うわね。今まで何もしてこなかったくせに」

「…確かに、一度は僕は君から逃げた。幸子を見捨てた」

「そうよ。貴方は幸子のことなんて考えてない」

「考えているさ、これからは幸子の思うようにやらせてやる。自由に」

「…幸子」

「…」ビクッ

母親の低い声に、幸子ちゃんは肩を震わせる。

二人暮らしの間で植え付けられたトラウマのせいか、口が上手く開かない様子だ。

「私は、貴方に何かしたのかしら?」

「…」

「答えなさい!幸子!私が貴方に一度でも暴力を振るったことがあるの!?」バンッ

「ヒッ…」

「…僕から、参考までに」

「何!?部外者が口を…!」

怯える幸子ちゃんと母親の間に突如入った右京さん。

当初は話が終わるまで口を出さないつもりだったけど、どうにも出てしまったみたい。

「日本において、法律的には2000年に成立した児童虐待防止法の定義に心理的虐待に該当する部分か・あります」

「はあ!?し、心理…!?」

「さらに2004年の改正て・心理的虐待に該当する定義はより具体的て・分かりやすいものに変更されました」

…ただうんちく言いたかっただけなんじゃないのかって思うけど。

「今の幸子さんは貴方に対し、恐怖を抱いているのは誰が見ても明らかです。これはまさしく長い期間の心理的虐待によるものといっても過言ではないと思いますよ?」

「…な、何の根拠があって言ってるの!?幸子が言った!?そんなことを!!」バンッ!

…確かに、幸子ちゃんからは一言も聞いていない。

たまにあるドラマでも、虐待を告発する子供は少なかったりするけど、現実でもそうなのかもしれない。

ましてやこれは肉体的ではなく、精神的なもの。

そして、そういうドラマの中では、総じて味方が少ないことが多い。

「…」

「どうなの!?幸子!答えなさい!」

…だけど、今の幸子ちゃんには、味方がいる。

「…」

「幸子!私は貴方の為に…!!」

少なくとも、この場に3人。

「…」

それだけでも、彼女の勇気を後押しするには十分だった。

253: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 21:58:46.59 ID:wBmLXEnwO
幸子「…だった…」

「え…」

幸子「…嫌、だった…」

「…さ、幸子…?」

幸子「いつも、お母さんが怖くて、嫌だった…」

「…な、何を…」

幸子「ボクは、貴方が嫌いです。ボクから友達を遠ざけて、自分の物のように扱って…!」

「…さ、幸子…」

幸子「もう、顔も見たくありません!」

「…!!?」

254: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 22:00:06.92 ID:wBmLXEnwO
ついに決壊した幸子ちゃんの我慢。

我慢というよりは、偽の人格。

「輿水幸子」という、お母さんに作り上げられたもう一人の人格。

幸子ちゃんのお母さんは、目の前で起きた事を理解していないのか、瞬きすらしていない。

「…」

ただただ呆然としている。

…だけど…。

「ボクは、お父さんのところに行きます。だからもう…」

「…にを…た…」

「…え…」

「…何を…たの…」

母親の視線が捉えているのは、幸子ちゃんではない。

…捉えた先にいるのは…。

「幸子に、何をしたの!!!」

「…」

彼女の怒りの矛先が向いたのは、右京さんだった。

255: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 22:01:24.34 ID:wBmLXEnwO
「アンタの、アンタのせいで幸子が変わった!!アンタのせいで変わっちゃった!!!」

「…」

右京さんは何も答えない。

凄まじい剣幕で食ってかかる彼女に対し、冷たい視線で返す。

「幸子は私が育てたの!!私の子なの!!」

「…」

その目には、どう映っているのか。

「誰にも渡さない!!ましてやアンタ達なんかに!!」

心の内は分からないけど、一つだけ、分かる。

「幸子は、私の物なのよ!!」

…これは、嵐の前の静けさだ。

「いい加減にしなさい!!!」

「ッッ!!」

256: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 22:02:47.31 ID:wBmLXEnwO
友紀「…」

幸子「…」

「…」

右京「実の娘を物などと…親の言うことですか!!」

「…な、何を…」

右京「彼女の気持ちをほんの少しも理解出来ない貴方に、親を名乗る資格など…ありはしませんよ…!」

「わ、私は…幸子の為に…」

「…右京さんが紹介してくれた探偵さんから、聞いたよ」

「ッ…な、何よ…」

「…お前、この数ヶ月で、どれだけ借金してるんだ?」

「!!」

「…変だと思ったよ。俺が出してる養育費だけで、あんなに高い車や服、幸子の塾や家庭教師…絶対に無理なんだ」

「…」

「家の中だってそうだ。随分金をかけてリフォームしたんだな」

「…これは全部…」

右京「貴方の言う、誰かの為、というのは、本当に幸子さんの為なのですか?」

「…そ、そうよ…」

右京「ならば幸子さんの目を御覧なさい」

「…」

幸子「…」

右京「その目が、感謝を表している目だと本気で思えますか?」

「…」

右京「…貴方がやっていることは、全て、貴方の為なんですよ」

友紀「…」

右京「…貴方の、小さなプライドの為」

「…」

友紀「…絶対、幸せになんかなれませんよ」

「…」

友紀「嘘で塗り固められた人生なんて、その後もずっと嘘の人生でしかないんだから…」

「…」

右京「…」

257: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 22:03:48.81 ID:wBmLXEnwO
…あれから数日が経過した。

その後、何も言い返さなくなった幸子ちゃんのお母さん。

糸の切れた人形のように動かなくなり、アタシ達もそれ以上は責められなくなっていた。

「彼女も、ギリギリだったのでしょう」

いつものように紅茶を飲む右京さんは、そう語る。

見えを張り続け、その結果借金苦。

誰にも、娘にさえも言えないまま、強がるしかなかった彼女。

その全ては崩壊し、最早何もかも失った。

…そう思ってた。

だけど、幸子ちゃんのお父さんは、離婚は取り下げると言っていた。

…。

『家のものも、家も、全て売り払います。それで借金を返せると思いますし。…妻は、まあ向こうの実家に戻ってもらいますが』

『…そう、決めたんですね?』

『ええ。一度は愛した女ですから。だから、またいつか…元に戻れる日が来ると信じています』

『…良い、ご決断です』

…。

258: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 22:04:58.96 ID:wBmLXEnwO
全てが元通りになったわけじゃない。

もう元通りにはならないかもしれない。

でも、なって欲しい。

幸子ちゃんが産まれた時のように、みんなが幸せに笑っていた時のような生活に。

「失いかけたからこそ、背負う覚悟が出来たんでしょうねぇ」

「…背負う、覚悟…」

「ええ。ご英断だと、僕は思います」

…こうなることも、お見通しだったのかな。

…でも、右京さんの激昂する姿は初めて見たなあ。

「…右京さんも、声出るんだね」

「…」

いらぬ質問だと言わんばかりに無視をする。

…もしかしたら、本当はあっちが本当の右京さんで、またやっちゃったとでも思ってるのかな。

「…でも、さ。右京さん」

「何でしょうか?」

「…難しいね。家族って」

「…そうですねぇ……しかし」

「?」

「君のあの時の発言。僕は非常に親近感を覚えました」

「…?」

あの時の発言…?

何だろ…。

「嘘で塗り固められた人生なんて、その後もずっと嘘の人生でしかない。…僕もまた、そのように思っていましたよ」

「…」

それって、つまり…。

「…褒めてる?」

「褒めているかどうか、それを僕に決めることは出来ませんが…」

「…」

「少なくとも、親近感を覚えるということはありました」

…何だろ。

ちょっと、嬉しい。

259: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 22:06:10.70 ID:wBmLXEnwO
それと、ここ数日で変わったことがもう一つある。

「…」

それは、アタシ達にとってはなるべくしてなったものなのかどうか。

「…」

果たして、どうなのか…。

「おはようございます!」

「…」

「…」

「どうしましたか?ボクが来てあげたのに全く!」

…。

「おはよ。幸子ちゃん」

「はい!おはようございます!」

「おはようございます」

「おはようございます!…あ、これ…ボクの…?」

「ええ。君も一員ですからねぇ」

「…」

もしかしたら、なるべくして、なったのかもしれない。

集まるべくして、集まったのかもしれない。

「ほらほら幸子はん。そないなところで立ち止まっとったらウチが通れまへんえ?」

「おや紗枝さん!今日も可愛いボクが見られて…」

「はいはい。ちっこくてかわええなぁ」

「ちっこくないです!」

…これからどうなるのか分からないけど。

「それよか友紀はん…」

「ん?」

260: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 22:07:45.01 ID:wBmLXEnwO
紗枝「ウチがおらん間に、色々あったみたいやなぁ」

友紀「えっ…!?ち、違うよ!そんな…そんなことは無いから!」

紗枝「…何がどすかぁ?」

友紀「…最近何もアクション起こさないと思ったら…!」

紗枝「ウフフ。そない怒らんと。さあ、幸子はん。改めてよろしゅう…」

幸子「あ、はい!………よ…い……!!!」プルプル

右京「…」

友紀「…あれ…もしかして…」

幸子「もう……ちょっ…とぉ…!」プルプル

紗枝「届いてまへんえ」

幸子「うー…!!」プルプル

右京「…」ヒョイ

幸子「あっ…」

右京「幸子君。君はこれから、様々なことを人に頼る事になるでしょう」カタン

幸子「…」

右京「慣れていくことです。普通でいることに」

幸子「…」

右京「…」

幸子「…いえ流石に今のは子供扱いですよね!?」

右京「ンフフ」

幸子「あー!バカにしてますねー!?」

友紀「…ねえ右京さん」

右京「はい?」

友紀「…何で幸子ちゃんだけ、名前?」

紗枝「…」

右京「…何故でしょうねぇ…」

幸子「そんなの決まってます!」

友紀「…」

幸子「ボクが、可愛いからですよ!」

右京「おやおや…」

紗枝「幸子て…幸薄そな名前やなぁ…」

幸子「何を言うんですか!とっても幸福な名前ですよ!」

友紀「…」

右京「…しかし、何故でしょうねぇ…」

友紀「…多分、幸子君って言い過ぎたんじゃない?」

右京「ああ!…そんな簡単なことでしたか」

友紀「この際だから、みんな名前で呼びなよ。ほら、アタシは?」

右京「…」

友紀「…」

右京「…姫川君ですねぇ」

友紀「あっ…こらー!」

第七話 終

261: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 22:10:44.80 ID:vGKxhMh90
おつ

263: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 22:18:25.66 ID:fgvN2Liy0

ユッキが最初のアイドルなのは亀山が野球のスポーツ推薦で大学進学したから?

264: ◆GWARj2QOL2 2016/03/31(木) 22:29:13.47 ID:wBmLXEnwO
>>263
偶然の一致です

266: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 22:54:48.44 ID:1FKvSIJPO

初プル

271: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/01(金) 17:29:11.29 ID:n7Hao/Jh0
いいプルプル右京さんだった。武Pもチョイ役で出て来たし乙

272: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/03(日) 13:27:00.84 ID:0CF/Igo60
武内P来たか
いい具合に世界線繋げてるな