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右京「346プロダクション?」


189: ◆GWARj2QOL2 2016/03/28(月) 21:05:47.47 ID:h/ESpcJ9O
とりあえず幸子Pさんごめんなさい

190: ◆GWARj2QOL2 2016/03/28(月) 21:06:23.90 ID:h/ESpcJ9O
春。

桜が咲いて、花見シーズンも訪れた。

しばらく見なかった虫も目覚め、陽気な日が続いている。

「…」

…はずなのに。

「…あー…寒い…」

朝のニュースを見ると、今日の最低気温は2℃。

放射冷却で寒い朝方は越えたからそこまではないだろうけど、まだ朝早いし、気温は多分5℃くらいなんじゃないかと思う。

「…こんなんじゃ、咲いたもんも閉じちゃうよ…」

ただでさえ寒いのが苦手なアタシにとっては、かなり嫌な温度。

早く事務所に行って、暖房の効いた部屋で休みたい。

「…」

右京さんの部屋は、狭いし、ロッカーも無いしで不便だけど、狭いからこそすぐに暖房が効く。

そこだけが唯一の利点ともいえる。

それに右京さんはアタシ達よりもかなり早く来てる様子で、入ったら既に暖房が入ってる状態だし。

…ん?

「…ちゃんと、家に帰ってるよね?」

…うん。

まあ、それは無いか。
普通に帰ってるし…。

191: ◆GWARj2QOL2 2016/03/28(月) 21:08:02.98 ID:h/ESpcJ9O
「…」

アタシ達の一日の始まり。

一番乗りで右京さんがやってきて、エアコンのスイッチを入れて紅茶の準備をする。

その30分後くらいにアタシが来て、もう10分後に紗枝ちゃんが来る。

そして入口の横に設置してあるタイムカード代わりの木札を表にして、そこから一日が始まる。

紗枝ちゃんは平日なら学校に行って、その他の日はレッスンに。

アタシはまあ、大体レッスン…。

「…」

…でもあの木札、右京さんが自分で作ったって言ってたから驚いたなあ。

…紗枝ちゃんのは、お手製だったけど。

…。

『あ、紗枝ちゃんそれどうしたの?』

『ウチも作ってたんどす。どうどすか?』

『はー…達筆だなあ…』

『書道は日本女子の嗜み…友紀はんもやってみたらどうどす?』

『えー…苦手だなあ、そういうの…』

『…』ヒョイ

『?』

『…そうですか…』ガリガリ

『あら?右京はん…気に入りまへんでしたか…?』

『気に入らないというよりは、気になりますねぇ…縦が5mm、横が3mm大きいです』ガリガリ

『まあ、そんなに!』

『…えええ…そのくらい良いじゃん…』

『どうにもこういうのは気になって…仕方ありません』ガリガリ

192: ◆GWARj2QOL2 2016/03/28(月) 21:09:01.77 ID:h/ESpcJ9O
…。

あの性格は、絶対直らないんだろうなあ。

「細かい事が気になるのが、僕の悪い、癖…なんちゃって……ん?」

…正門で、警備員のお爺さんと誰かが言い合いしてる…。

「いやだからね?関係者以外は…」

「何を言ってるんですか!ボクはスカウトされたんですよ!」

「いや…ならさ、名刺とか…」

「うぐっ…め、名刺は失くしました!」

「…じゃあ、ダメかなあ…」

「何故ですか!」

「…うーん…」

…あの子、何処かで見覚えがあるなあ。

薄紫の、横がハネた髪の毛に、中学くらいの姿。

「…あ!」

193: ◆GWARj2QOL2 2016/03/28(月) 21:10:42.95 ID:h/ESpcJ9O
「いやー…助かりました!感謝してあげますよ!」

「あ、あはは…」

アタシの知ってる範囲の事を警備員さんに話すと、意外とすんなり通してくれた。

勿論、聞いたらマズそうな話は言わずに。

…でも、こんな簡単にアタシの頼み聞いてくれるってことは、それだけ、アタシは顔馴染みになったってことなのかな…。

だけど、正門を抜け、エレベーターに乗るまでの間だけでもこの子はとにかく喋る。

アタシもお喋りな方だけど、この子は、ちょっと違う気がする。

だって、アタシが初めて見たこの子は…。

「全く、ボクの可愛さを見ればアイドルだとすぐに感づく筈でしょう!そう思いませんか?」

「いや…許可無しで入れるとあの人が怒られるから…」

…こんな感じではなかった。

アタシの知ってるこの子は、もっと。

…いや。

そういえば、静かになってたのは親の前だけだったっけ?

一人でいた時は、凄く楽しそうで、こんな感じだった。

「…」

『あの子、親に飼われてるわね』

早苗さんが言ったあの言葉。

それがどういう意味なのか、流石にアタシでも理解出来る。

だけど、そうしたら疑問は残る。

それを言ったのは右京さんだけど…。

「…」

どうしてそれ程大事にしている子を、あんな所に連れていったのか。

…分かんないや。

194: ◆GWARj2QOL2 2016/03/28(月) 21:12:07.93 ID:h/ESpcJ9O
「ここの階ですね!ここにボクが来てあげる事務所があるんですね!」

「うん。きっとすぐ馴染めるよ」

「当たり前です!ボクの可愛さでメロメロにしてあげますよ!…で?」

「ん?」

「何処に行くんですか?そっちはトイレですよ?」

「…あー…トイレの、もっと向こう…」

「え?あそこは物置部屋でしょう?倉庫って書いてありますよ!」

「……ま、とりあえず来て」

「?」

「…」

「…あ、あの…ちゃ、ちゃんと部屋はあるんですよね…?」

「あるよ。…ちょっと狭いけど…」

「狭い?…まあ狭いというのは我慢出来なくはないですが。倉庫の近くというのは……え、ここッッ!!?」

195: ◆GWARj2QOL2 2016/03/28(月) 21:13:20.27 ID:h/ESpcJ9O
友紀「そうだよ。ここ」

「ここって…倉庫…」

友紀「ううん。見なよ、ここ」

「プロジェクト(仮)…室長、杉下右京…」

友紀「ここが、アタシ達のお城!慣れたら良いとこだよ!」

「…あの…あの人って、係長…なんですよね?」

友紀「ん…うん…」

「係長の部屋が、倉庫ですか?」

友紀「…うん」

「そしてトイレの近くですか?」

友紀「うん…良いでしょ?」

「そこだけでしょ!!しかも大して羨ましくない!!」

友紀「まあ、住めば都だから…話だけでも聞いてってよ」グイグイ

「あ、ちょ!押さないで!まだ入るとは…!」

友紀「右京さーん!紗枝ちゃーん!新しいメンバーだよー!」ガチャ

「あっ…」

196: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/28(月) 21:14:22.02 ID:G1UiRy22O
3人揃ったか

197: ◆GWARj2QOL2 2016/03/28(月) 21:14:25.01 ID:h/ESpcJ9O
右京「…」

紗枝「…」

「…あ、あはは…」

友紀「これからこっちでやってみたいって!」

右京「おやおや。貴方でしたか。お待ちしておりましたよ?」

紗枝「?…この方、どなたどすか?」

右京「説明すれば長くなります」

紗枝「一言でどうぞ?」

右京「僕がスカウトしたんですよ」

紗枝「まあ…こないちっこい子を…」

「ち、ちっこくないです!!ボクはこれでも中学生ですよ!!」

紗枝「そうどすか?それはそれは…」ケラケラ

「ぬぐっ……初対面の人になんて失礼な…!!」

友紀「あー…とりあえずさ、自己紹介とか…ね?」

「あ…ええ!いいでしょう!可愛い可愛いボクの名前、今ここで発表してあげますよ!!…ゴホン!」

右京「おやおや。気になりますねぇ」

紗枝「こないな所で大声出さんといてくださいな。響いてしゃあないんどす」

幸子「輿水幸子!!それが可愛いボクの、可愛い名前ですよ!」

右京「杉下右京と申します。こちらの着物の女性は小早川紗枝さん。そちらの貴方を連れてきた方は…」

幸子「姫川友紀さんですよね!先程教えてもらいましたから!」

右京「そうでしたか。ではまず、貴方に色々お話を伺いたいもので…」

幸子「む…何でしょう?」

右京「ええ。色々と…」

幸子「む…」

198: ◆GWARj2QOL2 2016/03/28(月) 21:15:33.79 ID:h/ESpcJ9O
輿水幸子、14歳。

何だか気圧されるような話し方だけど、何処か遠慮がちな雰囲気があるような、そんな気がする。

「…私立○○学校…」

「あれ?その学校名って何処かで聞いたことある…」

「ええ。都内にある中・高・大学とエスカレーター式になっている学校ですねぇ」

「え!あそこって…超エリート校じゃないの!?」

「フフーン!ボクは頭脳も完璧ですからね!」

あー…そういえば早苗さんも右京さんも絶対頭良いって言ってたなあ…。

「せやけどそない頭の良え学校の方がようこないなお仕事する気になりましたなぁ」

「完璧なボクはこの程度の事、造作もありませんよ!」

…確かに、エリート学校の人って聞くと、常に勉強勉強みたいな感じがするなあ。

…意外とそうでもないのかな?

「そしてボクを完璧なまでのアイドルにする、杉下さん!」

「完璧かどうかは別として、どうかされましたか?」

「まずこの部屋はなんですか!一人一つ物を置くスペースは用意して下さい!ギュウギュウ詰めじゃないですか!!」

「本来は倉庫ですからねぇ。2人もいれば満員だったんですが…」

「ならばスペースの広い場所を確保するべきです!係長ともあればもう少し広い…場所を…」

「…」

「あー…幸子ちゃん。あのね?」

「…いえ、まあこの部屋でもやりようはありますからね!許してあげましょう!」

「え?」

「…さ、ボクに聞きたいことがまだまだあるんでしょう!どうぞ聞いてください!」

199: ◆GWARj2QOL2 2016/03/28(月) 21:16:22.46 ID:h/ESpcJ9O
「…」

…まるでアタシの言葉を遮るように被せてきた。

…きっと気づいたんだ。

隔離された狭い部屋。
直されない部屋の名前。
与えられたそれなりの役職。

アタシが数日かかってようやく理解した事を、この数分で。

そしてそれに関して何も言わない。

それは取るに足らないことだという優しさなのか、ただの現実逃避なのか。

…この時のアタシには、まだ分からなかった。

200: ◆GWARj2QOL2 2016/03/28(月) 21:17:35.09 ID:h/ESpcJ9O
右京「成る程。貴方がとても聡明な方だということがよく分かりました」

幸子「そうでしょうそうでしょう!もっと褒めて下さい!」

右京「僕としては今すぐにでも貴方を採用したいところなんですがねぇ…」

幸子「どうしました?」

右京「ええ。未成年者を採用するには、親御さんの許可が必要なんですよ」

幸子「…」

右京「ですので、親御さんの許可を頂ければと思いまして…」

幸子「…そ、それって…どうしても必要ですか…?」

右京「ええ。これはルールですので。…勿論父親母親、どちらでも構いませんので」

幸子「…」

右京「いつでも構いません。僕はいつまでも待っていますので」

幸子「…は、はい…」

友紀「…」

紗枝「…」

右京「…」

幸子「…分かり…ました…」

右京「…それでは、お待ちしております」

幸子「はい…」

201: ◆GWARj2QOL2 2016/03/28(月) 21:19:00.66 ID:h/ESpcJ9O
紗枝「さっきのお方、親御さんの話題になった途端静かー…になりましたなぁ」

右京「君のように親御さんを手玉に取ることが出来る方もいれば、そうでもない方もいるということです」

紗枝「…エリートにはエリートなりの悩みがある言うことどすか?」

右京「ええ。そういうことです」

友紀「…」

右京「…携帯電話の電源を、切っていた可能性があります」

友紀「え?」

右京「腕時計はしていませんでした。そしてここの部屋の時計はあの棚に置いてある小さい電波時計のみです」

友紀「ん…まあ。確かに見にくいけど…」

右京「ええ、見にくいんですよ。その上彼女が座っていた位置からは死角と言ってもいい程見えない…。しかし彼女はその見にくい時計を目を凝らしてまで見ていた。携帯電話を見れば済む話なんですがねぇ」

紗枝「…そういえば、あのお方、右京はんの腕時計をやけにチラチラ見てましたなぁ…」

右京「ええ。それほど時間を気にするのならば尚更、携帯電話を見ればいいだけの話なんですよ」

友紀「…持ってないとか?」

右京「あれくらいの年齢の方なら持っておいておかしくはありません。その上彼女はエリートとも呼ばれる学校の生徒。連絡手段の一つとして持っていても不思議ではない…」

友紀「…時間を気にしてるけど、携帯は見ない…?」

紗枝「…?」

右京「分かりませんか?」

友紀「…うーん…」

早苗「考えられるのは、塾…もしくは習い事をサボってまで来た…」

紗枝「!」

友紀「うわビックリしたぁ!!」

202: ◆GWARj2QOL2 2016/03/28(月) 21:19:55.18 ID:h/ESpcJ9O
早苗「暇?」

友紀「暇?じゃないですよ。どうしたんですかいきなり…」

早苗「だって見覚えのある子がいたんだもん。気になってしょーがないわ」

紗枝「…片桐はんどすか?」

早苗「そうよ。瑞樹ちゃんが余計な事言いまくった早苗ちゃんよ」

友紀「…あの雑誌見てたんですね…」

早苗「…で?アタシの推測は正解?」

右京「正解かどうかは分かりませんが、僕と同じ考えですね」

早苗「そ」

紗枝「…つまりは、お嬢様校やから習い事していてもおかしない…。それをサボってここにやって来た、と…」

右京「そんなところでしょうかねぇ」

友紀「…え…だったら結構ヤバいんじゃ…」

早苗「そうね。今頃サボった理由考えてるわよ。あの親からバンバン電話かかってきてただろうし…」

友紀「あー…だから電源切ってた…」

早苗「…にしてもよ。今度は何やらかすつもり?」

右京「はいぃ?」

早苗「杉下係長はね、何でもかんでも首突っ込み過ぎなのよ。絶対苦情来るわよ」

右京「おやおや…僕はまだ何かをするとは言ってませんよ?」

早苗「未来が見えてんのよ。何の理由も無しにあんな事しないでしょ」

紗枝「あのー…何があったかは置いといて…背景が…」

友紀「え?…あー…」

早苗「…」

203: ◆GWARj2QOL2 2016/03/28(月) 21:20:57.72 ID:h/ESpcJ9O
幸子「…」


幸子「…」カチ


幸子「…!」

『着信 塾 3件』
『着信 母 24件』
『メール 母 37件』

幸子「…」ガタガタ

『♪』

幸子「ひっ………も、もしもし…」ピ

『幸子!!貴方今何処にいるの!!?』

幸子「あ、あの…ちょっと…お腹が痛くて…」

『だからってどうして電話に出ないの!!お母さん先生から連絡が来てビックリしたのよ!!?』

幸子「は、はい…すいません…」

『今すぐ先生の所に行って謝ってきなさい!!今日は塾で出来なかった分家庭教師にやっていただきますからね!!』

幸子「…はい…」

『そういえば…貴方まさか…アイドルになろうだなんて思って…346プロダクションに行ったんじゃないでしょうね…?』

幸子「い、いえ…」

『そうよね。あんな危ない仕事、貴方には相応しくないから』

幸子「…」

『聞いてるの!?』

幸子「は、はいっ!」

『貴方はちゃんと勉強して、一流企業に勤めて、エリートとしての人生を歩んで…』

幸子「…はい…」

204: ◆GWARj2QOL2 2016/03/28(月) 21:22:22.82 ID:h/ESpcJ9O
紗枝「…そうどすか」

友紀「まあ、何というか…アタシらには分からない悩みだよね」

紗枝「ウチも習い事はぎょうさんやっとりましたが、そない強制された覚えもありまへんなぁ…」

早苗「行き過ぎた教育。…ほら、たまにあるじゃない。頭の良い筈だった子がドローン飛ばすとか…」

友紀「あー…」

早苗「やり過ぎは良くないのよ。やらせなさ過ぎも良くないけど」

友紀「なんでアタシ見て言うんですか…」

紗枝「…ほんで?右京はんはあの方をここに入れるつもりどすか?」

右京「出来ることなら…」

紗枝「ウチは反対どすなぁ」

友紀「!」

早苗「…」

右京「…と、言いますと?」

紗枝「実の親も納得させられへんような方が他人を納得させられるとは到底思えまへん」

右京「…」

紗枝「それにあの態度。ただ強がってる風にしか見えまへん。そんなメッキ…すぐ剥がれますえ?」

右京「僕は何も、彼女をそのままアイドルにするとは言っていませんよ?」

紗枝「…?」

早苗「…まさか…」

右京「…いずれ、彼女の親にも会うことになるでしょうから」

早苗「…ハァ…」

友紀「…でもさ、右京さん」

右京「どうしましたか?」

友紀「あの子って、頭良いんでしょ?未成年なら親の許可がいるって分かってる筈じゃ…」

早苗「…分からない?」

友紀「え?」

早苗「…助けを求めてんのよ。誰でもいいから」

紗枝「助け、言うよりは…安らぎ…そんなところかもしれまへんなぁ」

右京「その言い方の方が、正しいかもしれませんねぇ」

早苗「…いずれにしても、あの子にとってアイドル云々はどうでもいいのよ。虐待されてるとかなら児童相談所とかに行くかもしれないけど、そうでもないみたいだし」

友紀「…藁にもすがる思いって事ですか?」

早苗「…ま、そんなところね…」

友紀「…」

紗枝「…」

右京「…」

205: ◆GWARj2QOL2 2016/03/28(月) 21:23:24.83 ID:h/ESpcJ9O
早苗「…で、よ」

右京「はいぃ?」

早苗「トボけんじゃないわよ。杉下係長も見たでしょ?あの母親がはいそうですか分かりましたで済ませる人に見える?」

右京「見えませんねぇ」

早苗「アタシらは警察でも公的機関の人間でもないのよ。普通の…まあ普通じゃないけど、会社の、社員と、タレント」

紗枝「…」

早苗「そんな人間が何の関係もない人に出来ることなんて何も無いのよ。そもそもあの子に実害でも出てんの?」

友紀「…むしろ、アタシらのが有害なんじゃ…」

早苗「そう。世間一般で見ればアタシらのがよっぽど有害。こんな人生棒に振るかもしれない職業なんてそうそうやらせるわけにはいかないのよ」

紗枝「そうどすなぁ…」

右京「…そうですねぇ」

早苗「…でもまあ、その救いたいって優しさは認めてあげたいけどね…」

右京「お心遣いどうもありがとう。…」

友紀「…どしたの?何か納得いってないって顔だけど…」

右京「…ええ。親を恐れてる。果たしてそれだけが塾を無断で休んだ理由になるのか…」

早苗「…行きたくない理由が、他にもあるってこと?」

右京「ええ。僕はそう考えています」

紗枝「…はい!この話はここでやめまひょ!」パン

早苗「…」

紗枝「推測するんはええと思います。せやけどもうすぐお仕事の時間どすえ?」

友紀「…あ」

右京「…そのようですねぇ」バッ

友紀「ん…まあ、じゃあ、行こっか。早苗さん。…えっと、何か…ありがとう…ございました…?」

早苗「何もしてないし変な気ィ使ってんじゃないわよ」

206: ◆GWARj2QOL2 2016/03/28(月) 21:24:39.90 ID:h/ESpcJ9O
「…」

あの時、右京さんが考えてた事って、何だろう。

幸子ちゃんが塾に行かなかった理由。

親だけじゃなくて、他にもいる。

「…」

アタシとは180°違う人生を歩んでいるあの子。

あの子にしか分からない悩み。

「…」

でも、右京さんは見破ってるのかもしれない。

「…」

ただ、それをこの人が教えてくれるだろうか。

…聞いたら、教えてくれるのかな。

「…」

…でも、聞いてどうするの?

聞いたら、アタシは何とかしようとするの?

自分の人生すらまだ上手くやっていないアタシが、他の人をどうにか出来るの?

「…難しいなあ」

「どうされたんどすか?」

「ん…なんでもない」

紗枝ちゃんから逃げるように窓に顔をやる。

こういう時、アタシはすぐ顔に出るから。

…だからかな。

「…!!?」

この時、アタシは決して見てはいけないものを見てしまった。

「右京さん!!止めて!!」

それと同時に、本能的にアタシの口は動いた。

「…!」

アタシの言葉を聞いた瞬間、右京さんは急ブレーキをかけた。

…後ろの車に野次を飛ばされていたけど。

「…!」ガチャッ

この時のアタシは、無我夢中だった。

シートベルトを強引に外し、ドアを開け、「そこ」に向かって一直線に走っていった。

「何してるの!!やめなさい!!」

「!」
「…逃げるよ!」

これが全く知らない赤の他人だったら、まだ余裕があっただろうけど。

「そこ」にいたのが赤の他人じゃなかったからか、アタシには逃げる彼女達を追いかける余裕は無かった。

だって、あの子達が寄ってたかっていじめてたのは…。

「さ、幸子ちゃん!大丈夫!?」

…他ならない、さっきまで元気に自分と話してた幸子ちゃんだったから。

207: ◆GWARj2QOL2 2016/03/28(月) 21:26:24.56 ID:h/ESpcJ9O
「…」

急いで時間を確認する。

…正直、そんなに余裕は無い。

だけど、この子を一人にしておく事も出来ない。

「幸子ちゃん!」

怪我をしている様子は無い。

けど、彼女の目は虚ろで、アタシの問いかけには返事をしない。

これだ。

これが、右京さんの恐れていたことだったんだ。

この子が塾をサボった理由。

親への恐怖。

そして、同じ塾生からの、陰湿ないじめ。

「輿水さん!返事をして下さい!輿水さん!」

「…う、右京さん…」

そして、これまで見たことのない程焦っている右京さん。

彼女がどれ程マズい状態なのか、それだけで理解出来る。

「…あ…は、はい。わ、私…でも、お金、ありません…」

「…!?」

「…輿水さん!!」

「…!は、はい!?…あ、杉下さん…」

208: ◆GWARj2QOL2 2016/03/28(月) 21:27:25.98 ID:h/ESpcJ9O
…この時のアタシ達の顔は、どれだけ酷かったんだろう。

「…」

紗枝ちゃんですら、幸子ちゃんをいじめていたあの子達を嫌悪感をあらわにした目で睨みつけている。

「ど、どうしたんですか…そんな3人で…」

そして全く意識の無かった幸子ちゃん。

アタシ達が来たことでようやく我に返ったようだけど。

…何なの、これ…。

「…幸子ちゃん…」

何なの、これ。

「そ、そんな泣きそうな顔して…何があったんですか…」

親に怯え、同級生に怯え。

いったいこの子が、何をしたっていうの…?

この子に、いつ安らぎが訪れるっていうの?

「…!」

この時のアタシが出来ること。

「ど、どうしたんですか…姫川さん。全く仕方ないですね!」

それは精一杯幸子ちゃんを抱き締める事だけだった。

そして、この時のアタシはまだ気がついていなかった。

「…」

瑞樹さんが言っていた、あの言葉。

『杉下右京の正義は、時に暴走する』

今からアタシは知ることになる。

杉下右京という人間の、凄まじいまでの正義感を。

「…」

弱者を守るためなら、例え何をしてでも止める、その生き様を。

「…!!」

第六話 終

209: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/28(月) 21:29:04.21 ID:T8/n1ZL2o
アイマスの方あんま知らんけど右京さんの話し方完璧すぎるんだろ乙

211: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/28(月) 22:34:36.22 ID:4hxzB3AKo

んあー次回に続くか、楽しみじゃ

212: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/28(月) 22:37:52.42 ID:PTNcTeLQ0
乙、右京さんの再現度高すぎ

213: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/28(月) 22:45:29.56 ID:lZSoe6VtO

これからぷるぷる震える右京さんが見れるのか

214: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/28(月) 22:47:01.05 ID:aPsbHRZao
おつ
続きが気になるぅー

215: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/28(月) 22:48:36.14 ID:mgCO3Dwp0
右京さんのプルプル期待

216: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/28(月) 23:02:04.00 ID:U9rf8byZ0
乙!
右京が守るのは弱者じゃなくてルールだと思うがどう転ぶか

217: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/28(月) 23:12:35.96 ID:0qhhH6qmo
たぶんプルプルシーンが来たらプルプルだけのレス(合いの手)がある

219: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 10:11:10.41 ID:hLJNyTK60
早苗さんまさかの角田課長ポジw
意外としっくりきてるのがまた面白いw

220: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 10:27:01.94 ID:o9fCA5qx0
毎回コーヒー…酒を集りに来る早苗さんか

223: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 22:03:09.56 ID:G8ORvLex0
これは「恥を知りなさい!(プルプル)」が来る