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【ミリマスSS】田中琴葉の誕生パーティ!!
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1570269897/


1: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:04:57.858 ID:KCG4R8az0
chapter 1/8


10月5日。今日は私、田中琴葉の19歳の誕生日。

19歳になったからといって特別なことは無いけれど、それでもやっぱり、19歳っていうのは特別なかんじだ。

2: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:06:26.857 ID:Z43WtBgBp
誕生日はやっぱりしじみ汁？

3: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:07:00.065 ID:KCG4R8az0
でも、誕生日の朝だからといって、いつもとやることは変わらない。

顔を洗って着替えをする。家族と挨拶をして、朝食を済まし、最後に鏡で全身をチェック。

4: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:08:17.032 ID:KCG4R8az0
おっと、カチューシャを忘れるところだった。やっぱり、これが無いと落ち着かない。

カチューシャを付けると、いつもの私が鏡に写し出された。よしっ。これでバッチリ。

5: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:08:24.664 ID:9bi/qWhud
琴葉ちゃんかわいいよう。。。

6: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:09:21.500 ID:KCG4R8az0
なんだか今日はいつもより寒い気がする。でも、花の女子高生はそんなことではびくともしないのだ。

「行ってきます!!」

7: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:09:24.042 ID:KuFkCC170
期待

8: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:10:07.715 ID:KCG4R8az0
chapter 2/8


シアターの扉を開ける。するとそこにいたのは、意外な人物だった。

9: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:11:13.000 ID:KCG4R8az0
「おお、琴葉くん!! いやあよくぞ来てくれたね。ずっと待っていたよ。ホラホラ、早くパーティ会場に行こうじゃないか」

驚いた。わざわざ社長が出迎えてくれていたのである。

10: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:11:45.616 ID:X53fuSmf0
ほ？

11: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:12:16.071 ID:KCG4R8az0
「社長!! すみません、ありがとうございます」

「なんのなんの!! それくらい当然じゃあないか。ず～～～っと君を待っていたんだからね!!」

12: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:13:15.720 ID:36oKBrhpd
19歳…?

13: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:13:23.401 ID:KCG4R8az0
パーティ会場にたどり着くと、部屋の中にいる全員が一斉に私の方を見た。

「琴葉だ!!」「琴葉さん!!」「琴葉!!」

皆が口々に私を呼んだ。あはは……。なんだかちょっと照れちゃうな。

14: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:14:31.850 ID:KCG4R8az0
「ちょっとみんな、恥ずかしいよ。でもありが……」

私の言葉は、走って抱きついてきたエレナによって遮られてしまった。

15: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:15:30.517 ID:KCG4R8az0
「わわっ。エレナ、どうしたの」

よく見ると、エレナの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。

「コトハ～～～!! ずっと待ってたヨ～～～!!」

16: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:16:18.456 ID:KCG4R8az0
みんなずいぶん大袈裟だなあ。とりあえず、エレナにティッシュを渡す。

エレナが鼻をかみ始めると、次いで恵美がやってきた。

17: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:17:06.414 ID:KCG4R8az0
「もう、琴葉ったらどんだけ待たせるのさ」

はにかみながら恵美はそう言った。あれ、遅刻はしてないはずだけどな。

まあ、みんな朝早くから誕生パーティの準備をしてくれていたということだろう。

18: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:17:54.091 ID:KCG4R8az0
「あっ、そうだ!! これ、琴葉にあげようと思ってさ!!」

そういって恵美が差し出したのは、ゴリゴリ君のやきそば味だった。

それは、アイス好きなら誰もが知っている。ずいぶん前に鳴り物入りで発売され、その不味さからわずか1ヶ月で生産終了したものである。

19: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:18:41.887 ID:KCG4R8az0
もう売っていないアイスをくれるなんて。しかしアイスには消費期限が無いので、わざわざ私の誕生日のために保存していてくれていたのだろう。

今となっては激レアのアイスだ。あとでじっくり頂こう。あれ、シアターに冷凍庫ってあったかな?

20: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:19:20.530 ID:Y67qfYVUa
琴葉復帰の演出は良かったな

21: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:19:30.722 ID:KCG4R8az0
そんなことを考えていると、Pがやってきた。

「琴葉、本当によく来てくれたな。これから頑張っていこう!!」

「はいっ!! これからもプロデュース、よろしくお願いします!!」

22: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:20:19.080 ID:KCG4R8az0
Pと目が合う。彼は満面の笑みを浮かべた後、部屋全体に向けて叫んだ。

「さあみんな、主役の到着だ!! 今日は派手に行くぞ!!」

23: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:20:54.846 ID:KCG4R8az0
chapter 3/8


パーティが始まる前に、社長の挨拶があるらしい。私も含めて、みんなが適当な場所で椅子に座る。少しだけ椅子が足りなくて、何人かは立ちっぱなしだった。

24: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:21:45.071 ID:KCG4R8az0
「え～～。うおっほん。本日は寒空の中――」

社長が喋り始める。いつもならしっかり話を聞くのだが、今日は何故だかみんながこっちを見ながらそわそわしていて、なんだか私も落ち着かない。

25: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:22:32.415 ID:KCG4R8az0
「――そしてなんといっても、今日は本当にめでたい日で――」

昴ちゃんと目が合う。満面の笑みで、手を大きく振っている。もう、今はお話中だよ。

26: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:23:21.360 ID:KCG4R8az0
「――そして今日、田中琴葉君の合流が叶い、ここからが本当の――」

ちょっと待った。今、何て?

合流?

27: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:24:09.696 ID:KCG4R8az0
私は昨日もシアターに来ているのに? 今日のパーティは、私の誕生日パーティのはずでは?

何が、どうなっているの?!

28: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:24:57.894 ID:KCG4R8az0
「P!! き、今日は何月何日ですか?!」

立ち上がってPに問う。Pは面食らった様子で、こう答えた。

「え? 何を言っているんだ? 今日は……2月8日だろう?」

29: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:25:47.032 ID:KCG4R8az0
そんな馬鹿な……。そうだスマホ!! 慌ててスマホを取り出す。

すると画面に映し出されていたのは、やはり確かに2月8日だった。

大変なことになってしまった……。私は、過去の世界、私がシアターに帰ってきたあの日に、飛んできてしまった!!

30: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:26:34.860 ID:KCG4R8az0
chapter 4/8


パーティ会場を飛び出して、トイレの手洗い場で鏡を見つめる。

ほっぺたをつねっても、顔を洗っても、何も変わらない。戻らない。

やはり私は、過去の世界、あの2月8日に飛んできてしまったようだ。

31: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:27:24.444 ID:KCG4R8az0
どうしよう……。どうにかして、元の世界に戻る方法を……。

水を流す音だけが響く。私は深呼吸を繰り返した。

32: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:28:02.648 ID:KCG4R8az0
……。

次第に息が整ってくると、不思議なことに、私に別の考え方が芽生えてきた。

33: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:28:54.677 ID:KCG4R8az0
元の世界に、戻る必要は無いのではないか?

シアターのみんなと過ごす日々はかけがえのないものであった。それは宝物だ。ならば、もう一度繰り返してもいいのではないか?

34: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:29:42.383 ID:KCG4R8az0
そして、私には元の世界の記憶がある。ならば、例えば、灼熱少女のリーダーも、もっと上手くやれるんじゃないだろうか。

もしかしたら、1度経験したイベントを繰り返すのは少しだけ退屈かもしれない。しかし、よく考えるとメリットも大きい気がしてきた。

35: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:30:25.554 ID:KCG4R8az0
なあんだ。少し動転してしまったが、大したことはない、というよりむしろラッキーではないか。

パンッ、と頬を叩いて気持ちを入れ直し、私はパーティ会場に戻った。

36: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:31:16.808 ID:KCG4R8az0
「大丈夫か、琴葉?」

Pが心配そうに尋ねる。

「あ、いえ……。すみません、大丈夫です。気にしないでください」

37: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:32:02.973 ID:KCG4R8az0
「あ～、それでは、話の続きを」

社長の挨拶が再開された。みんな、私を祝ってくれているのに、迷惑かけちゃったな。

38: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:33:13.681 ID:KCG4R8az0
「――今日から、シアターは新しいスタートを切ったわけだが――」

そうだ、ミリオン流星群を見るために登山をした時の星梨花ちゃんの怪我も、前もって防げるではないか。

39: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:34:02.026 ID:KCG4R8az0
「――琴葉くんの合流を祝して、今日は思う存分にパーティを楽しんで――」

オーディションも、前回と同じことをすれば問題なく通過できるだろう。

40: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:34:49.198 ID:KCG4R8az0
「――では、ここに揃った51人のアイドル諸君の新たなる門出を祝って、乾杯!!」

かんぱ……。

待て。

41: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:35:37.918 ID:KCG4R8az0
51人? なぜ、51人なんだ?

急いで会場を見渡す。

海美ちゃん、恵、美也、環ちゃん、昴ちゃん、星梨花ちゃん、未来、風花さん、亜利沙……。

42: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:36:25.007 ID:KCG4R8az0
……。

私は大馬鹿者だ。こんなことに今まで気が付かなかったなんて。

「私……」

「どうした、琴葉?」

43: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:37:12.610 ID:KCG4R8az0
元の世界に戻らなくてもいい、なんて思っていた自分が恥ずかしい。

こんな世界にはいられない。いられるわけが無い。

「私、紬ちゃんを探さなきゃ!!」

44: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:38:03.079 ID:KCG4R8az0
chapter 5/8


ハァ、ハァ……。

いない。どこにもいない。

45: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:38:51.177 ID:KCG4R8az0
舞台、エントランス、ドレスアップルーム、事務室、控え室。シアター中を駆け回ったが、紬ちゃんは見当たらなかった。

屋上にも来てみたが、やはりここにもいない。

46: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:40:04.479 ID:KCG4R8az0
シアターのみんなが紬ちゃんを知らないということは、この世界では紬ちゃんはアイドルではないということだろう。

もしくは、別のプロダクションでアイドルをやっているのかもしれない。

47: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:40:51.605 ID:KCG4R8az0
スマホを確認するが、紬ちゃんの連絡先のデータは失われていた。

どうしよう……。手掛かりが全く無い。

48: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:41:38.909 ID:KCG4R8az0
金沢に行けば会えるだろうか。ああ、紬ちゃんの家の呉服屋の名前を聞いておくべきだった!!

もしくは、この世界に紬ちゃんは……。いやいやまさか、そんなこと……。

49: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:42:33.100 ID:KCG4R8az0
とりあえず、金沢に行こう。道行く人に「白石さんの呉服屋を知りませんか」と尋ね続ければ、分かるかもしれない。

というか、今出来ることはそれぐらいしか無さそうだ。

50: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:42:51.028 ID:+3M/+L/a0
VIPでミリSSなんて珍しい

51: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:44:51.308 ID:KCG4R8az0
屋上から出て、シアターの出口に向かう。階段を降りて、廊下を渡り、また階段を降りる。

その途中だった。見慣れた文字の貼り紙が、見慣れない場所に貼ってあるのが目に止まった。

52: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:45:43.229 ID:KCG4R8az0
『立ち入り禁止!!』

それは間違いなく、私の文字である。それが何故か小さな倉庫の扉に貼られている。

あれ? 私、なんでこの倉庫に立ち入り禁止を貼ったんだっけ? というか、この倉庫、何だったっけ?

53: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:46:32.713 ID:KCG4R8az0
フーッと、深呼吸。

これは仕方ない、紬ちゃんを探すため……と自分に言い訳をして、立ち入り禁止の扉に手を掛ける。

54: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:47:24.365 ID:KCG4R8az0
ガチャガチャ

ドアノブは回るが、扉は開かない。鍵がかかっているというより、内側から強く引っ張られている感じだ。

55: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:48:16.415 ID:KCG4R8az0
「むぎぎぎぎぎ!!」

渾身の力を込めて引っ張る。中に紬ちゃんがいるかもしれないのだ。負けるわけにはいかない。

56: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:48:56.956 ID:KCG4R8az0
「ふんぬぬぬぬ!!」

少しずつ開いてきた。そろそろ内側を覗けそう……というその瞬間。

57: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:49:42.226 ID:KCG4R8az0
「うわっ!!」

扉の内側から眩い光が飛び込んできて、そのまま私を包み込んだ!!

58: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:51:25.951 ID:KCG4R8az0
chapter 6/8


気が付くと私は真っ白な部屋の中にいた。

すぐ後ろに扉がある。しかしドアノブは無い。

ドンッ、ドンッと押してみてもビクともしない。これは参ったな。出るのは大変そうだ。

59: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:52:23.473 ID:KCG4R8az0
このまま立っていても仕方がないので、部屋を奥に進んでいく。

真っ白な、だだっ広い部屋。どう考えても倉庫ではない。

60: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:53:19.401 ID:KCG4R8az0
この部屋に、紬ちゃんはいる。理由は無いけれど、そんな気がする。

更に奥に進んでいくと、遠い場所に何かが見えた。

61: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:54:05.900 ID:KCG4R8az0
近付いてみると、それが大きな掛け時計だと分かった。

日付も入っているのが分かる。しかし全体としては、見た事が無い、不思議な形をしている。

それこそ、魔力を秘めていそうだ。

62: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:54:59.497 ID:KCG4R8az0
更に近付いてみる。するとその掛け時計の下に……。

「紬ちゃん!!」

体育座りをしてうつむいている。顔は見えないが、その美しい銀髪を、見間違えるはずはない。

63: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:55:48.539 ID:KCG4R8az0
急いで駆け寄る。顔が見えてきた。目を合わせてはくれないが、間違いなく、紬ちゃんだった。

よくよく見てみると、目が真っ赤である。

64: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:56:44.442 ID:KCG4R8az0
泣き腫らした紬ちゃん。不思議な掛け時計。出られない部屋。そして、私のタイムスリップ。紬ちゃんだけが、いなかった世界。

だいたい、分かった。

65: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:57:31.704 ID:KCG4R8az0
会った時にはなんて声を掛けようか、色々考えてはいた。

しかし私は何も言わずに、紬ちゃんの隣に、おんなじ体育座りで座り込んだ。

66: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:59:09.445 ID:KCG4R8az0
……。

どれくらい、経っただろうか。

紬ちゃんから、すすり泣く声が聞こえた。

67: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 19:59:57.159 ID:KCG4R8az0
私は紬ちゃんを優しく抱きしめ、頭を撫でる。

すると紬ちゃんは、声を上げて泣き始めてしまった。

68: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:00:51.189 ID:KCG4R8az0
「田中っ、さん、うち、うち～～～!」

「よしよし。いいのよ紬ちゃん。会えて嬉しいわ」

69: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:01:46.681 ID:KCG4R8az0
ずび、と鼻を鳴らす音がした。ティッシュを渡そうと思ったがエレナに渡してしまったので、代わりにハンカチを渡す。

紬ちゃんは鼻をかんで、ゆっくりと、話を始めてくれた。

70: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:02:52.070 ID:KCG4R8az0
誕生パーティのためのイスを用意しようとして、この部屋に吸い込まれてしまったこと。そして、この掛け時計を見つけたこと。

触るとすぐに使い方が分かったという。これで、時を巻き戻したのだ。

紬ちゃんと私が出会う、2月8日まで。

71: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:04:23.203 ID:KCG4R8az0
「うちっ、人見知りで、田中さんと、最初は仲良くなれなくて、それで……」

涙で顔がボロボロだ。指で優しく拭ってあげると、もっと涙が溢れてきた。

「もう1回、出会いから、やり直そうって、でもそしたら、部屋から出られなくなって、う、うわ～～～ん!!」

72: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:05:21.282 ID:KCG4R8az0
chapter 7/8


うちは、どうしようもないだらぶちだ。

勝手に出会いからやり直そうとして、時間を巻き戻して。でも部屋から出られなくなってしまって。

田中さんにとんでもない迷惑と、心配を掛けてしまった。

73: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:06:27.027 ID:KCG4R8az0
田中さんは、助けに来てくれた。優しいから。うちはそれに甘えてしまってばっかり。

なんと詫びたらいいんだろう。うちはみんなを困らせてばっかりだ。

74: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:07:37.301 ID:KCG4R8az0
「紬ちゃん、あのね」

田中さんと目が合う。とっても優しい瞳だ。

「確かに、紬ちゃんはちょっと人見知りだけど……。でも、私たちは会ったその日から、ずっと仲良しだったよ?」

75: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:08:26.938 ID:KCG4R8az0
涙が止まらないうちを、田中さんは優しく撫でてくれた。

「最初からずっと、友達だった。それとも、そう思っていたのは、私だけだったのかな?」

76: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:09:16.445 ID:KCG4R8az0
そんなことを、言われてしまったら。

うちは、もう。

「うわ～～～ん!! ごめっ、ごめんなさい～～～!! 」

77: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:10:20.085 ID:KCG4R8az0
「謝らないでよ、紬ちゃん。大好き。大好きだから」

田中さんの胸の中で、うちは泣いた。田中さんの服がぐしゃぐしゃになって、それでも涙が止まらなくて、泣いて泣いて泣いた。

78: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:11:10.136 ID:KCG4R8az0
……。

いつしか涙は止まり、気持ちも落ち着いてきた。しかし、大きな問題が残ったままだ。

どうやってこの部屋を出るか、である。

79: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:12:02.513 ID:KCG4R8az0
内側からは開かない。誰か外から開けてくれるのを待つしかない。

いつになるだろうか。何時間後、何日後、いや、もっと後かもしれない。どうしよう。不安になってきた……。

80: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:12:53.462 ID:KCG4R8az0
「田中さん、でもこの部屋出られんげん……」

すると田中さんから帰ってきたのは、意外な返答だった。

81: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:13:47.111 ID:KCG4R8az0
「大丈夫よ、紬ちゃん。任せて」

そう言うと田中さんは時計を回し始めた。ぐりぐり、ぐりぐり……。そして合わせた日付は、11月5日の昼過ぎだった。

82: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:14:38.529 ID:KCG4R8az0
「田中さん、これは……」

「心配しないで。すぐ出られるから」

突然、視界がぐにゃりと歪んだ。いや、田中さんの姿は歪んでいないので、部屋が歪んでいる。

83: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:15:38.838 ID:KCG4R8az0
たちどころに天井は青空に変化し、床は土になり、壁は消え去った。

そして驚いたことに、足元から植物が生えてきた。見慣れない南国の植物である。

それはとんでもないスピードで成長し、いつの間にか2人はジャングルの中にいた。

84: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:17:00.325 ID:KCG4R8az0
「な、な、なんやいね、これは?!」

「ふふふ、予想通り。あとはもう少し待てば……」

ガチャリ、と扉が開いて、見覚えのある3人が入ってきた。

85: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:17:50.542 ID:KCG4R8az0
「おーい、環、真美!! ちょっと待って……って、どうして倉庫がジャングルに?!」

「すごいね、おやぶん!! たまき、ジャングルの探検なんてはじめてだぞっ!!」

「まみたま探検隊、レッツゴー!! ってあれ、琴葉お姉ちゃんとつむりんじゃん!! おーい!!」

Pと、大神さんと、真美さんである。

86: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:18:49.451 ID:KCG4R8az0
「P!! そこで扉を押さえていて下さい!!」

「琴葉!! そんなところで何をして……」

87: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:19:40.506 ID:KCG4R8az0
Pが言い終わるのも待たずに、田中さんは掛け時計を持ち上げて……

「それっ!!」

地面に叩き付けた。

88: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:21:28.061 ID:KCG4R8az0
ガッシャーン!!

粉々になった掛け時計は、光の塵となり、そしてそのまま消えてしまった。

何が何だか、さっぱり分からない。ポカーンとしていると、田中さんはうちに手を差し伸べて言った。

「さあ、紬ちゃん。帰ろう!!」

89: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:22:34.977 ID:KCG4R8az0
迷わずそれを握り、2人は扉に向かって駆け出す。

田中さんの手。温かくて、優しくて、柔らかくて、そしてとても心強い。ずっと握っていたくなる、そんな手だった。

90: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:22:53.084 ID:DgOCyBWW0
つむちゃん小学生みたいだね

91: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:23:39.001 ID:KCG4R8az0
chapter 8/8


気が付くと、私は廊下で立っていた。

扉を出る辺りで光に包まれて……それで……。

92: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:24:32.336 ID:KCG4R8az0
そうだ、日付!!

スマホを取り出して確認する。10月5日。誕生日。戻ってこられた。

連絡先に、しっかり紬ちゃんのアドレスもある。よかった……。

93: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:25:23.190 ID:KCG4R8az0
あ、そうだ。一つやるべきことがある。

私はカバンから紙とペンを取り出し、大きな文字で『立ち入り禁止!!』と書いて倉庫の扉に貼り付けた。

「ふふっ。これでよし」

94: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:26:27.513 ID:KCG4R8az0
さて、あとはもうパーティ会場に戻るだけだ。

廊下を渡って会場の手前までたどり着く。既に、内側から楽しげな音と声が聞こえてきていた。

95: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:27:16.859 ID:KCG4R8az0
私の大好きなシアター。私の大好きなみんな。

ガチャリ。扉を開くと、シアターのみんな、こんどこそ、一人も欠けず、みんながそこにいた。

ケーキもある。そうそう、誕生パーティなのだから、これが無いと始まらない。

96: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:28:08.732 ID:KCG4R8az0
ケーキのそばにいた紬ちゃんが私に気が付いて、少し照れながら、いや、微笑みながら、私のほうに駆け寄ってきた。

よく見ると、少しだけ涙目だ。でも、そこは見なかったことにしておこう。

97: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:29:00.164 ID:KCG4R8az0
「あのっ!! 田中さん!!」

「ふふっ。どうしたの、紬ちゃん」

顔も少し赤い。心臓の鼓動が、目の前から聞こえてきそうだ。

98: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:30:24.113 ID:KCG4R8az0
「うち、田中さんのこと……」

紬ちゃんは涙をぐっとこらえて、満面の笑みでこう言った。

「大好き!!」



ハッピーバースデー琴葉。おしまい

99: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:32:49.385 ID:+3M/+L/a0
なんやかんや言ってもやっぱり琴葉もこの程度で動じないのはシアターメンバーらしいな
つむちゃん！乙

100: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:44:04.651 ID:xx/k8+XaM
シリアス系だなーと思ってたらまさかのたなつむでちょっと笑ってしまったやいね

101: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/10/05(土) 20:58:34.926 ID:KCG4R8az0
>>99
>>100
サンキューな

0：風吹けばナナC 2009/05/13(水) 11:48:22.64 ID:hSdUYTwy
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