1: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 21:34:07.59 ID:ZGeaKk6G0
――20XX年
空を見上げたら太陽が2つあった――と言えば過去の人達は果たして信じたでしょうか。
2つめの太陽ができるという予言じみた観測結果は、すでに数十年前に報告が出されていましたが、
世間は半信半疑で、実際に見るまでは誰もがジョークだと考えていました。
しかし、実際に太陽ができてしまった、つまり超新星爆発が起きてしまった後は大変な騒ぎでした。
多くのテレビ局で連日特番が組まれました。
それでも、しばらくすると空に太陽が2つあることは当たり前で、いまや面白いことではなくなってしまいました。
そして気づけば、世間の関心はべつの話題へと移っていきました。
皆さんはお気づきでしょうか。今朝方、人知れずに2つめの太陽の輝き――厳密には超新星爆発の光り――は失われていたのです。
おそらく、皆さんは気にも留めないかもしれません。
しかし科学の歴史は、今日という日を後々まで忘れることはないでしょう……。
プツン――
空を見上げたら太陽が2つあった――と言えば過去の人達は果たして信じたでしょうか。
2つめの太陽ができるという予言じみた観測結果は、すでに数十年前に報告が出されていましたが、
世間は半信半疑で、実際に見るまでは誰もがジョークだと考えていました。
しかし、実際に太陽ができてしまった、つまり超新星爆発が起きてしまった後は大変な騒ぎでした。
多くのテレビ局で連日特番が組まれました。
それでも、しばらくすると空に太陽が2つあることは当たり前で、いまや面白いことではなくなってしまいました。
そして気づけば、世間の関心はべつの話題へと移っていきました。
皆さんはお気づきでしょうか。今朝方、人知れずに2つめの太陽の輝き――厳密には超新星爆発の光り――は失われていたのです。
おそらく、皆さんは気にも留めないかもしれません。
しかし科学の歴史は、今日という日を後々まで忘れることはないでしょう……。
プツン――
2: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 21:34:52.57 ID:ZGeaKk6G0
とある夏休みの一日。何度寝かの後、ふと目が覚め、私は起き上がりました。
長い髪をかき上げ、頭をぽりぽりとかいて時計を見ると、朝の11時。ちょうどいい時間です。
遅い朝食をとりにリビングへと下りていきます。センサーが反応して扉が開くと、奥の方からテレビの音が聞こえてきました。
どうやらつけっぱなしのようです。恐らくお父さんのせいだな。
テレビではご意見番らしき専門家が、超新星なんたらが輝きを失い、ブラックホールへ変わるだろうと説明しています。太陽が一つに戻ったとのことでした。
――そういえば、確かに暑くないかも。ためしに家のカーテンを開けてみます。
嘘です、めっちゃ暑いです。昨日と変わらない暑さに辟易して、私はカーテンを閉めて熱気が入ってくるのを防ぎます。
これはしょうがないですね。こう暑い日は、家でごろごろしてるに限ります。
超新星なんたらを観測する科学者だって、クーラーの効いた研究室でディスプレイ越しに観測している時代です。
つまり、朝から涼しい部屋にこもる私は、研究者たる素質を十二分に兼ね備えた金の卵、エリート女子高生なのです!
3: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 21:35:38.84 ID:ZGeaKk6G0
なんて自分の未来に思いをはせながらブランチを謳歌していると、突如としてリビングの扉が開かれました。
現れしは私のお父さんです。起床してからだいぶ経つというのに、まだ眠そうな、腐った目をしています。これでも全盛期よりは輝きを取り戻しているらしいのですが。
比企谷娘(以下娘)「おはよー」
八幡父「……こんにちは。お前は相変わらずの起床時間だな」
娘「たっぷりと寝た結果です。寝不足はお肌の大敵ですから」
八幡父「夜更かしもな」
娘「してしまったものは仕方ないのです。だから弥縫策として遅起きでカバーしたのです」
八幡父「この減らず口、やはり育て方を間違えたか」
娘「お父さん譲りです。葉山のお父さんからそう言われたりしますし」
私がそういうと、お父さんは「またあいつか……」とぶつぶつと愚痴っています。相変わらず仲は良くないようです。
ふと、お父さんが思い出したかのように顔をあげました。
八幡父「そうだ。なぁ娘よ、今日こそお父さんとデートに――」
娘「いきません」
現れしは私のお父さんです。起床してからだいぶ経つというのに、まだ眠そうな、腐った目をしています。これでも全盛期よりは輝きを取り戻しているらしいのですが。
比企谷娘(以下娘)「おはよー」
八幡父「……こんにちは。お前は相変わらずの起床時間だな」
娘「たっぷりと寝た結果です。寝不足はお肌の大敵ですから」
八幡父「夜更かしもな」
娘「してしまったものは仕方ないのです。だから弥縫策として遅起きでカバーしたのです」
八幡父「この減らず口、やはり育て方を間違えたか」
娘「お父さん譲りです。葉山のお父さんからそう言われたりしますし」
私がそういうと、お父さんは「またあいつか……」とぶつぶつと愚痴っています。相変わらず仲は良くないようです。
ふと、お父さんが思い出したかのように顔をあげました。
八幡父「そうだ。なぁ娘よ、今日こそお父さんとデートに――」
娘「いきません」
4: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 21:36:32.00 ID:ZGeaKk6G0
八幡父「お、お父さんが荷物持ちするから」
娘「それだったらお父さんよりアマゾンで頼むし」
八幡父「はぅっ……」
お父さんががっくりとうなだれる。
昔ならいざ知らず、娘の買い物に荷物持ちでついていこうなど考えが甘いです。今なら買ったその場で配送してくれるので、男手などいらんのです。おとといきやがれです。
娘「というよりも、今日は陽乃さんと会う約束をしてるのです」
八幡父「うげっ……」
娘「まぁたそんな反応する。お父さんほんとあの人が苦手ですね」
八幡父「学生時代、あの人にはよくおもちゃにされたからなぁ……。まぁ今となっちゃ懐かしい思い出だけど」
娘「それだったらお父さんよりアマゾンで頼むし」
八幡父「はぅっ……」
お父さんががっくりとうなだれる。
昔ならいざ知らず、娘の買い物に荷物持ちでついていこうなど考えが甘いです。今なら買ったその場で配送してくれるので、男手などいらんのです。おとといきやがれです。
娘「というよりも、今日は陽乃さんと会う約束をしてるのです」
八幡父「うげっ……」
娘「まぁたそんな反応する。お父さんほんとあの人が苦手ですね」
八幡父「学生時代、あの人にはよくおもちゃにされたからなぁ……。まぁ今となっちゃ懐かしい思い出だけど」
5: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 21:37:10.41 ID:ZGeaKk6G0
娘「あ、そうなんですか? ならよかったらお父さんも――」
八幡父「いかねぇ」
娘「なんでそんな食い気味に」
八幡父「いいか。自然界には食物連鎖というのがあってだな。その最底辺にいるお父さんがあの人に会ったら命がヤバい。なんかもう超ヤバい」
娘「お父さん、焦りすぎて語彙力が小学生レベルになってるよ」
八幡父「まじかよ。これでもお父さん、高校時代は国語学年3位だったんだぞ」
娘「もう何十年も前の話でしょ。その自慢聞き飽きたし」
八幡父「おい聞き飽きたとか言うなよ。お父さんそれしか誇るとこないんだから」
娘「この数十年間なにしてたのさ……」
ピンポーン
娘「あ、陽乃さん来たみたい」
八幡父「え、うちに来るの? お父さん聞いてないぜ。まだ逃げる準備が――」
八幡父「いかねぇ」
娘「なんでそんな食い気味に」
八幡父「いいか。自然界には食物連鎖というのがあってだな。その最底辺にいるお父さんがあの人に会ったら命がヤバい。なんかもう超ヤバい」
娘「お父さん、焦りすぎて語彙力が小学生レベルになってるよ」
八幡父「まじかよ。これでもお父さん、高校時代は国語学年3位だったんだぞ」
娘「もう何十年も前の話でしょ。その自慢聞き飽きたし」
八幡父「おい聞き飽きたとか言うなよ。お父さんそれしか誇るとこないんだから」
娘「この数十年間なにしてたのさ……」
ピンポーン
娘「あ、陽乃さん来たみたい」
八幡父「え、うちに来るの? お父さん聞いてないぜ。まだ逃げる準備が――」
6: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 21:37:41.62 ID:ZGeaKk6G0
ピンポンピンポーン
娘「はーい、今いきまーす」
八幡父「いいか娘よ、お父さんはいないことにしてくれ。あと玄関あたりで追い返す水際作戦を求む」
陽乃「ぜんぶ聞こえてるんだけど」
八幡父「げっ」
娘「ひゃっはろー陽乃さん」
陽乃「ひゃっはろー娘ちゃん」
八幡父「どうも……。あと、うちの娘に間違ったあいさつを覚えさせないでください」
陽乃「相変わらず固いなぁ君は。日本語だって日々進化してるんだよ。やっはろーだって広辞苑に載ったし」
八幡父「まじかよ……。日本語乱れすぎだろ」
娘「はーい、今いきまーす」
八幡父「いいか娘よ、お父さんはいないことにしてくれ。あと玄関あたりで追い返す水際作戦を求む」
陽乃「ぜんぶ聞こえてるんだけど」
八幡父「げっ」
娘「ひゃっはろー陽乃さん」
陽乃「ひゃっはろー娘ちゃん」
八幡父「どうも……。あと、うちの娘に間違ったあいさつを覚えさせないでください」
陽乃「相変わらず固いなぁ君は。日本語だって日々進化してるんだよ。やっはろーだって広辞苑に載ったし」
八幡父「まじかよ……。日本語乱れすぎだろ」
7: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 21:38:52.57 ID:ZGeaKk6G0
娘「それでそれで! 陽乃さん。今日はどんな発明したんですか!」
陽乃「ふふん。それは研究室にきてからのお楽しみということで」
娘「すっごい楽しみです!」
私が手を叩いてはしゃぐと、陽乃さんが目を細めた。それから、いたずらっぽく笑う。
陽乃「しっかし、まさか君の娘が理系になるなんてねぇ。とても血がつながってるとは思えないね」
八幡父「なにを言ってるんですか。けっこう似てますよ。男っ気がないとことか」
娘「いやいや、ぜんぜん違いますし。わたしお父さんと違ってハイスペックですから」
八幡父「ふっ、バカにするなよ。お父さんは家事にテニスに勉強、何でもできるんだぜ、友達はできないけど」
娘「お父さんだって、私のこと舐めちゃいけませんよ。私は小町おばさんから受け継いだ可愛い顔に炊事能力、そして勉強も理系科目なら学年3位です。友達がいないことと干物であることを除けばハイスペックなのです!」
陽乃「あ、これ八幡くんの娘だね」
八幡父「いやお恥ずかしい」
娘「えへへ」
陽乃「褒めてないからね?」
陽乃「ふふん。それは研究室にきてからのお楽しみということで」
娘「すっごい楽しみです!」
私が手を叩いてはしゃぐと、陽乃さんが目を細めた。それから、いたずらっぽく笑う。
陽乃「しっかし、まさか君の娘が理系になるなんてねぇ。とても血がつながってるとは思えないね」
八幡父「なにを言ってるんですか。けっこう似てますよ。男っ気がないとことか」
娘「いやいや、ぜんぜん違いますし。わたしお父さんと違ってハイスペックですから」
八幡父「ふっ、バカにするなよ。お父さんは家事にテニスに勉強、何でもできるんだぜ、友達はできないけど」
娘「お父さんだって、私のこと舐めちゃいけませんよ。私は小町おばさんから受け継いだ可愛い顔に炊事能力、そして勉強も理系科目なら学年3位です。友達がいないことと干物であることを除けばハイスペックなのです!」
陽乃「あ、これ八幡くんの娘だね」
八幡父「いやお恥ずかしい」
娘「えへへ」
陽乃「褒めてないからね?」
8: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 21:39:35.83 ID:ZGeaKk6G0
陽乃さんが呆れたように言う。まぁ、ここまでが比企谷家でのあいさつみたいなものですし、陽乃さんの流しぐあいも慣れたものです。
陽乃「でもごめんね。キミも招待してあげたいんだけど、今日は娘ちゃんとの女子会だから、男の子は呼べないんだ」
八幡父「いや、その歳で女子とか――」
陽乃「あっ?」
八幡父「――いつまでも若々しくていいなぁ」
娘「お父さん……」
八幡父「何も言うな……」
陽乃「じゃあ娘ちゃん、いこっか」
娘「はい!」
八幡父「いってらっしゃい。陽乃さんに迷惑かけるなよ。お父さんの身のためにも」
娘「はーい。いってきまーす」
陽乃「じゃあねー」
陽乃「でもごめんね。キミも招待してあげたいんだけど、今日は娘ちゃんとの女子会だから、男の子は呼べないんだ」
八幡父「いや、その歳で女子とか――」
陽乃「あっ?」
八幡父「――いつまでも若々しくていいなぁ」
娘「お父さん……」
八幡父「何も言うな……」
陽乃「じゃあ娘ちゃん、いこっか」
娘「はい!」
八幡父「いってらっしゃい。陽乃さんに迷惑かけるなよ。お父さんの身のためにも」
娘「はーい。いってきまーす」
陽乃「じゃあねー」
9: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 21:40:11.80 ID:ZGeaKk6G0
――雪ノ下グループ科学技術センター 研究室
陽乃「実は以前からアメリカの科学者と私的に共同研究をしていてね。その研究がついに実を結んだんだよ」
娘「へぇ。どんな研究してたんですか?」
陽乃「ふっふん。それはね、時間遡行だよ。簡単に言えばタイムマシンを発明したの」
娘「本当ですか! すごいじゃないですか!」
陽乃「いやいや、もっと褒めてもいいんだよ」
娘「でも、タイムマシンには1.21ジゴワットもの電力が必要だというのが定説じゃなかったですか? いったいどこから調達できたんですか」
陽乃「宇宙だよ、この大いなる宇宙」
娘「……さすが陽乃さん、電波な発言もお手の物ですね」
陽乃「はっ倒すよ?」
娘「すいません、比企谷ジョークです」
陽乃「実は以前からアメリカの科学者と私的に共同研究をしていてね。その研究がついに実を結んだんだよ」
娘「へぇ。どんな研究してたんですか?」
陽乃「ふっふん。それはね、時間遡行だよ。簡単に言えばタイムマシンを発明したの」
娘「本当ですか! すごいじゃないですか!」
陽乃「いやいや、もっと褒めてもいいんだよ」
娘「でも、タイムマシンには1.21ジゴワットもの電力が必要だというのが定説じゃなかったですか? いったいどこから調達できたんですか」
陽乃「宇宙だよ、この大いなる宇宙」
娘「……さすが陽乃さん、電波な発言もお手の物ですね」
陽乃「はっ倒すよ?」
娘「すいません、比企谷ジョークです」
10: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 21:42:34.85 ID:ZGeaKk6G0
陽乃「まぁ娘ちゃんに免じて許そう。実は昨年に起きた超新星爆発でのエネルギーを、うちの衛星を介して研究所に貯めておいたんだよ、私的に」
娘「私的に……」
陽乃「それで今日、タイムマシンが完成したから早速実験してみたの。その結果、成功したってわけ」
娘「おお、すごい! それで、そのタイムマシンというのは?」
陽乃「向こうの実験室においてあるよ。じゃ、ちょっとついてきて」
娘「はい」
私は陽乃さんの後ろをついていき、階段を下りる。なんかさっき、陽乃さんが悪い笑みを浮かべてた気がします。
やばい、これはまた変な発明の実験台にされる可能性が。
この前は考えていることを当てる機械だとかを被せられました。
結局、考えていることは読めず、吸盤が髪の毛にひっついて大変だったのは記憶に新しいです。
そんなことを不安要素を考えていると、どうやらついたらしく、入口で陽乃さんがカードをかざしています。
ピッという機械音と同時に、実験室の扉が開きました。
実験室の中はタテに長く、真ん中には空港の発着場のような細長い道路が敷いてありました。
娘「私的に……」
陽乃「それで今日、タイムマシンが完成したから早速実験してみたの。その結果、成功したってわけ」
娘「おお、すごい! それで、そのタイムマシンというのは?」
陽乃「向こうの実験室においてあるよ。じゃ、ちょっとついてきて」
娘「はい」
私は陽乃さんの後ろをついていき、階段を下りる。なんかさっき、陽乃さんが悪い笑みを浮かべてた気がします。
やばい、これはまた変な発明の実験台にされる可能性が。
この前は考えていることを当てる機械だとかを被せられました。
結局、考えていることは読めず、吸盤が髪の毛にひっついて大変だったのは記憶に新しいです。
そんなことを不安要素を考えていると、どうやらついたらしく、入口で陽乃さんがカードをかざしています。
ピッという機械音と同時に、実験室の扉が開きました。
実験室の中はタテに長く、真ん中には空港の発着場のような細長い道路が敷いてありました。
11: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 21:43:47.01 ID:ZGeaKk6G0
陽乃さんは入り口付近にある奇妙な形をした車のもとへと歩いていきます。私もそれについていきました。
陽乃「ここにある車が、いわゆるタイムマシンになるんだ」
娘「この車なんですか。見た目はだいぶ古臭いですね」
陽乃「共同研究者の趣味で選ばれたからね。今はなきデロリアン社の車らしいよ。愛称はそのまんまデロリアンね」
娘「へぇ」
陽乃「で、娘ちゃんを呼んだのは他でもない。この車に乗って、実際に時間遡行を体験してもらいたいんだ」
娘「え、わたしがですか?」
陽乃「そうそう。なんせ人間ではまだ試してないからね」
娘「えっ」
私が不安そうな顔をすると、陽乃さんは逃がさんとばかりに私の腕をつかんできました。
陽乃「ここにある車が、いわゆるタイムマシンになるんだ」
娘「この車なんですか。見た目はだいぶ古臭いですね」
陽乃「共同研究者の趣味で選ばれたからね。今はなきデロリアン社の車らしいよ。愛称はそのまんまデロリアンね」
娘「へぇ」
陽乃「で、娘ちゃんを呼んだのは他でもない。この車に乗って、実際に時間遡行を体験してもらいたいんだ」
娘「え、わたしがですか?」
陽乃「そうそう。なんせ人間ではまだ試してないからね」
娘「えっ」
私が不安そうな顔をすると、陽乃さんは逃がさんとばかりに私の腕をつかんできました。
12: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 21:45:28.24 ID:ZGeaKk6G0
陽乃「大丈夫大丈夫。では、とりあえず乗ってみよー」
娘「いやいやちょっと待ってください。これ安全性クリアしてるんですか?」
陽乃「んっ? 安全基準なんてあるわけないないじゃん? 国には黙って作ってるんだし」キョトン
娘「え、なんで不思議そうな顔してるんですか!?」
あ、今日はトンデモ発明の日ですね。トンデモ発明品のときは、ほんとうに訳がわからないことになってしまうから避けるのが吉です。
これさえなければ、できるカッコいい女性なのに。
娘「とにかく、そんなへんてこな車に乗りませんよ」
陽乃「まぁまぁ、さっき犬で試したら成功したしいけるって。自信持とうよ」
娘「え、犬の次わたしなんです?」
陽乃「飛び級ってやつだよ。やったね娘ちゃん!」
娘「いやいや、もっと過程を踏んでからにしてくださいよ……」
娘「いやいやちょっと待ってください。これ安全性クリアしてるんですか?」
陽乃「んっ? 安全基準なんてあるわけないないじゃん? 国には黙って作ってるんだし」キョトン
娘「え、なんで不思議そうな顔してるんですか!?」
あ、今日はトンデモ発明の日ですね。トンデモ発明品のときは、ほんとうに訳がわからないことになってしまうから避けるのが吉です。
これさえなければ、できるカッコいい女性なのに。
娘「とにかく、そんなへんてこな車に乗りませんよ」
陽乃「まぁまぁ、さっき犬で試したら成功したしいけるって。自信持とうよ」
娘「え、犬の次わたしなんです?」
陽乃「飛び級ってやつだよ。やったね娘ちゃん!」
娘「いやいや、もっと過程を踏んでからにしてくださいよ……」
13: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 21:46:54.98 ID:ZGeaKk6G0
陽乃「まったくもう。そうやって常識にとらわれていると時代においてかれるよ」
娘「いや、大事ですよ! 宇宙に行くのだって、犬の次はチンパンジーですよ」
陽乃「はいはい、分かったから乗った乗った」
そういうと、陽乃さんは私の腕を引っ張って無理やり車に乗せてしまった。
私が中に入れられると、周りでは助手らしき白衣を着た外人が何かを点検している。
陽乃「あ、ちゃんと安全バーとシーベルトの装着を確認してね」
娘「なんですか、そのアトラクションみたいな説明……」
陽乃「この乗り物は酔いやすいので、飲酒された方と妊娠中の方はご搭乗をご遠慮くださーい」
娘「あ、急につわりが……」
陽乃「はい一名様しゅっぱーつ」
娘「聞いちゃいないね、知ってたけどね!」
わたしの文句が陽乃さんに届く前に、車は急加速で発進した。際限知らずに車はどんどん加速していきます。
そしてメーターが140kmまで振れた瞬間、視界が光に包まれていきました。
娘「いや、大事ですよ! 宇宙に行くのだって、犬の次はチンパンジーですよ」
陽乃「はいはい、分かったから乗った乗った」
そういうと、陽乃さんは私の腕を引っ張って無理やり車に乗せてしまった。
私が中に入れられると、周りでは助手らしき白衣を着た外人が何かを点検している。
陽乃「あ、ちゃんと安全バーとシーベルトの装着を確認してね」
娘「なんですか、そのアトラクションみたいな説明……」
陽乃「この乗り物は酔いやすいので、飲酒された方と妊娠中の方はご搭乗をご遠慮くださーい」
娘「あ、急につわりが……」
陽乃「はい一名様しゅっぱーつ」
娘「聞いちゃいないね、知ってたけどね!」
わたしの文句が陽乃さんに届く前に、車は急加速で発進した。際限知らずに車はどんどん加速していきます。
そしてメーターが140kmまで振れた瞬間、視界が光に包まれていきました。
14: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 21:48:17.01 ID:ZGeaKk6G0
――
娘「あいたた……」
陽乃(機械音)「あー、テステス。娘ちゃん、聞こえる?」
私の周りを小さくて丸っこい金属色の物体が空を飛んでいる。陽乃さんの通信機器です。ちなみに羽はつけずに飛んでいます。
つまり、製作会社は意地でも羽をつけないあそこです。
娘「……聞こえてますよ。というか、こんな荒い運転なんて聞いてないです。自動走行に慣れた身にはこたえますよ……うぷっ」
陽乃「これでもどこぞのタクシーよりはましでしょ。あ、エチケット袋は前の引き出しに入ってるから」
娘「……」ゴソゴソ
陽乃「それでそれで、前の引き出しにあるタブレットを起動してみて。日付はどうなってる?」
娘「えーっと、この妙にでかいやつですか?」ヒョイ
陽乃「そうそれそれ」
娘「あいたた……」
陽乃(機械音)「あー、テステス。娘ちゃん、聞こえる?」
私の周りを小さくて丸っこい金属色の物体が空を飛んでいる。陽乃さんの通信機器です。ちなみに羽はつけずに飛んでいます。
つまり、製作会社は意地でも羽をつけないあそこです。
娘「……聞こえてますよ。というか、こんな荒い運転なんて聞いてないです。自動走行に慣れた身にはこたえますよ……うぷっ」
陽乃「これでもどこぞのタクシーよりはましでしょ。あ、エチケット袋は前の引き出しに入ってるから」
娘「……」ゴソゴソ
陽乃「それでそれで、前の引き出しにあるタブレットを起動してみて。日付はどうなってる?」
娘「えーっと、この妙にでかいやつですか?」ヒョイ
陽乃「そうそれそれ」
15: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 21:49:10.94 ID:ZGeaKk6G0
娘「ぽちっと……え、2015年1月29日……?」
陽乃「やった、成功! 今持っているタブレットはその時代のもので、回線も当時のものが使用されてるんだよ」
娘「うそ!? じゃあここは、29年前の世界なんですか!」
陽乃「そういうことだね。ふふ、わくわくしてきた?」
娘「いえ、とくには」
陽乃「つれないなぁ。今の娘ちゃんは、その時代の人から見れば未来人なんだよ?」
娘「はっ! そうです。私はこれから先の未来を知っているのです!」
陽乃「そうそう。まるでSF小説みたいな――」
娘「よぉーし、こうなったら未来の知識で小銭稼ぎを」
陽乃「……考えることはほんと比企谷くんゆずりなんだね」
娘「あっ、私のタブレット使えない……」
陽乃「まぁこの時代には衛星充電なんて無いし、回線も違うからね」
娘「陽乃さん!」
陽乃「ダメだよ」
陽乃「やった、成功! 今持っているタブレットはその時代のもので、回線も当時のものが使用されてるんだよ」
娘「うそ!? じゃあここは、29年前の世界なんですか!」
陽乃「そういうことだね。ふふ、わくわくしてきた?」
娘「いえ、とくには」
陽乃「つれないなぁ。今の娘ちゃんは、その時代の人から見れば未来人なんだよ?」
娘「はっ! そうです。私はこれから先の未来を知っているのです!」
陽乃「そうそう。まるでSF小説みたいな――」
娘「よぉーし、こうなったら未来の知識で小銭稼ぎを」
陽乃「……考えることはほんと比企谷くんゆずりなんだね」
娘「あっ、私のタブレット使えない……」
陽乃「まぁこの時代には衛星充電なんて無いし、回線も違うからね」
娘「陽乃さん!」
陽乃「ダメだよ」
16: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 21:50:07.56 ID:ZGeaKk6G0
娘「まだ何も言ってないのに!」
陽乃「お金儲けに手は貸さないからね」
娘「……やだなぁ、ちょっと船橋まで散歩するだけですよ」
陽乃「中山って名のつく施設に入ったら回線切るから」
娘「わー! 分かりました。複勝だけにしますから、どうか勘弁してください!」
陽乃「なぜ競馬から離れないの……。だいたい、そっちの日付は平日だから、競馬自体やってないよ」
娘「うわー……(つかえねー)」
陽乃「心の声が口に出なくてよかったね」
娘「それもう聞こえたのと一緒じゃないですか……」
陽乃「……まぁ娘ちゃんには悪いんだけど、あまりこの世界には干渉できないの」
娘「そうなんですか?」
陽乃「お金儲けに手は貸さないからね」
娘「……やだなぁ、ちょっと船橋まで散歩するだけですよ」
陽乃「中山って名のつく施設に入ったら回線切るから」
娘「わー! 分かりました。複勝だけにしますから、どうか勘弁してください!」
陽乃「なぜ競馬から離れないの……。だいたい、そっちの日付は平日だから、競馬自体やってないよ」
娘「うわー……(つかえねー)」
陽乃「心の声が口に出なくてよかったね」
娘「それもう聞こえたのと一緒じゃないですか……」
陽乃「……まぁ娘ちゃんには悪いんだけど、あまりこの世界には干渉できないの」
娘「そうなんですか?」
17: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 21:51:13.66 ID:ZGeaKk6G0
陽乃「時間軸には修正力があるというのが大方の予想だけど、それも小さな干渉についてだからね」
陽乃「大規模だったり、イレギュラーな干渉をした際の変化については未知数なの」
娘「え、じゃあなんで私こっちに送られたんですか」
陽乃「ん? 人柱?」
あらやだ、人権が侵害されてますよ奥さん。日本の法曹界はなにしてるの。
陽乃「だいじょうぶ! 科学の進歩には貢献してるし、娘ちゃんの犠牲は忘れないし」
娘「死ぬ前提ですか!?」
陽乃「冗談だってば。お詫びに好きなもの買ってあげるよ」
娘「えっ! ほんとですか! 陽乃さんだいすき!」
陽乃「その現金な手のひら返し、きらいじゃないよ」
陽乃さんが呆れたような声を出す。
陽乃「大規模だったり、イレギュラーな干渉をした際の変化については未知数なの」
娘「え、じゃあなんで私こっちに送られたんですか」
陽乃「ん? 人柱?」
あらやだ、人権が侵害されてますよ奥さん。日本の法曹界はなにしてるの。
陽乃「だいじょうぶ! 科学の進歩には貢献してるし、娘ちゃんの犠牲は忘れないし」
娘「死ぬ前提ですか!?」
陽乃「冗談だってば。お詫びに好きなもの買ってあげるよ」
娘「えっ! ほんとですか! 陽乃さんだいすき!」
陽乃「その現金な手のひら返し、きらいじゃないよ」
陽乃さんが呆れたような声を出す。
18: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 21:52:20.32 ID:ZGeaKk6G0
陽乃「トランクの中にその時代の紙幣10万円分が入っているから、それを付属のポシェットに入れて、お店で好きなもの買っていいよ」
陽乃「たぶんそれぐらいあれば大抵のものが買えたはずだよ」
娘「あ、この時代で買うんですね。……うーん、でも昔の機械とか食べ物って、怖くて買いたくないなぁ」
陽乃「おや、失礼な考えだね。私はその時代のものを使って生きてきたんだよ」
娘「そりゃ陽乃さんですし」
陽乃「……娘ちゃんが帰ってくるまでその言葉覚えておくね」
あら不思議、この時代に居心地のよさを感じてきちゃいました。
とりあえずぶらりと町へ出てみる。陽乃さんは通信機を見られないようにポシェットの中に格納した。
しかしそれでも、なにか妙に視線を感じます。
陽乃「あー、そういえばその服装だと目立つかもねー」
ひょこっと通信機がポシェットから顔? レンズの面を出す。
娘「え、そうなんですか」
陽乃「たぶんそれぐらいあれば大抵のものが買えたはずだよ」
娘「あ、この時代で買うんですね。……うーん、でも昔の機械とか食べ物って、怖くて買いたくないなぁ」
陽乃「おや、失礼な考えだね。私はその時代のものを使って生きてきたんだよ」
娘「そりゃ陽乃さんですし」
陽乃「……娘ちゃんが帰ってくるまでその言葉覚えておくね」
あら不思議、この時代に居心地のよさを感じてきちゃいました。
とりあえずぶらりと町へ出てみる。陽乃さんは通信機を見られないようにポシェットの中に格納した。
しかしそれでも、なにか妙に視線を感じます。
陽乃「あー、そういえばその服装だと目立つかもねー」
ひょこっと通信機がポシェットから顔? レンズの面を出す。
娘「え、そうなんですか」
19: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 21:53:20.83 ID:ZGeaKk6G0
そう言われて、私は自分の服装に目をやる。
陽乃さんに手伝ってもらって、未来での最先端ファッションを取りそろえた普通の服装です。
色だってオレンジ一色ですし、モノトーンなんか使ってません。
陽乃「その時代だと、全身オレンジ色の服装は消防隊員とか海猿ぐらいなんだよ」
娘「うみざる?」
わたしが頭の中でハテナを浮かべる。そうすると、ハッと気づいたかのように通信機はうなだれたかのように低空飛行になっちゃいました。
陽乃「……お姉さん、ひさびさに歳を感じちゃったよ……」
娘「いや、お姉さんって――」
陽乃「あん?」
娘「にゃ、にゃんでもないでしゅ……」
通信機から異様なオーラを感じます。毎度のことですが、陽乃さんに歳の話はタブーです。
今でも美魔女みたいな容姿をしていて、よく男をひっかけに出かけているという話を聞きますが、しかし陽乃さんが朝帰りしたという話は聞いたことがありません。
どうやら、年齢を聞いた瞬間に男の人は逃げていくようなのです。……南無三。
陽乃さんに手伝ってもらって、未来での最先端ファッションを取りそろえた普通の服装です。
色だってオレンジ一色ですし、モノトーンなんか使ってません。
陽乃「その時代だと、全身オレンジ色の服装は消防隊員とか海猿ぐらいなんだよ」
娘「うみざる?」
わたしが頭の中でハテナを浮かべる。そうすると、ハッと気づいたかのように通信機はうなだれたかのように低空飛行になっちゃいました。
陽乃「……お姉さん、ひさびさに歳を感じちゃったよ……」
娘「いや、お姉さんって――」
陽乃「あん?」
娘「にゃ、にゃんでもないでしゅ……」
通信機から異様なオーラを感じます。毎度のことですが、陽乃さんに歳の話はタブーです。
今でも美魔女みたいな容姿をしていて、よく男をひっかけに出かけているという話を聞きますが、しかし陽乃さんが朝帰りしたという話は聞いたことがありません。
どうやら、年齢を聞いた瞬間に男の人は逃げていくようなのです。……南無三。
20: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 21:54:52.73 ID:ZGeaKk6G0
陽乃「とりあえずその恰好じゃ面倒だから、どこかで適当に服を買いにいこう」
娘「じゃあユニクロですね」
陽乃「なんで第一候補がそこなの……」
なんでと言われても、それは比企谷家の遺伝子としか言いようがないのです。ただし小町さんを除きます。
そうこうしていると、突然に背後からつよい風が吹いてきました。
すると高校生くらいの男の子が、あっという間に私を追い抜き、遥か向こうまで遠ざかっていきました。
……なかなかのイケメンでしたね。しごく眼福。
その後ろ姿に見とれていると、次にはへろへろと今にも倒れそうな男子が続いて私を追い越していきます。
追い越される瞬間、ふと目と目が合ってしまいました。
娘「……あーっ!」
男の子「えっ? ――うわっ」
私が大きな声を出してしまったせいか、驚いた男の子は足がもつれてしまいました。
とっさに腕を伸ばして男の子を抱きかかえようとします。
しかし、自慢ではないけれど体育で2以外を取ったことない私には、男子を支えることなどできるわけないのです。
まぁつまり、一緒にたおれちゃいました。あらやだ、この役立たずっ☆
娘「じゃあユニクロですね」
陽乃「なんで第一候補がそこなの……」
なんでと言われても、それは比企谷家の遺伝子としか言いようがないのです。ただし小町さんを除きます。
そうこうしていると、突然に背後からつよい風が吹いてきました。
すると高校生くらいの男の子が、あっという間に私を追い抜き、遥か向こうまで遠ざかっていきました。
……なかなかのイケメンでしたね。しごく眼福。
その後ろ姿に見とれていると、次にはへろへろと今にも倒れそうな男子が続いて私を追い越していきます。
追い越される瞬間、ふと目と目が合ってしまいました。
娘「……あーっ!」
男の子「えっ? ――うわっ」
私が大きな声を出してしまったせいか、驚いた男の子は足がもつれてしまいました。
とっさに腕を伸ばして男の子を抱きかかえようとします。
しかし、自慢ではないけれど体育で2以外を取ったことない私には、男子を支えることなどできるわけないのです。
まぁつまり、一緒にたおれちゃいました。あらやだ、この役立たずっ☆
21: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 21:55:40.35 ID:ZGeaKk6G0
娘「――あいたたっ」
男の子「だ、大丈夫でひゅか」
突然のことで慌てているのか、男の子はあたふたしながら私から離れる。
娘「うう、大丈夫です。そちらこそお怪我はありませんか?」
男の子「えっ? 俺の心配してくれるの?」
娘「え? 当然ですよ」
じっと男の子の目を見つめる。すると気恥ずかしくなったのか、男の子が目を背ける。男の子は特に怪我をした様子もなく、すぐに立ち上がった。
しかしこの濁った目、すごい見覚えがありますね……。具体的には今朝、リビングで見た気がします。
男の子「……そんなに見つめないでくれ」
娘「えっ、なんでですか?」
男の子「……えっ、俺の目キモくないの?」
娘「いえ、とくには」
男の子「だ、大丈夫でひゅか」
突然のことで慌てているのか、男の子はあたふたしながら私から離れる。
娘「うう、大丈夫です。そちらこそお怪我はありませんか?」
男の子「えっ? 俺の心配してくれるの?」
娘「え? 当然ですよ」
じっと男の子の目を見つめる。すると気恥ずかしくなったのか、男の子が目を背ける。男の子は特に怪我をした様子もなく、すぐに立ち上がった。
しかしこの濁った目、すごい見覚えがありますね……。具体的には今朝、リビングで見た気がします。
男の子「……そんなに見つめないでくれ」
娘「えっ、なんでですか?」
男の子「……えっ、俺の目キモくないの?」
娘「いえ、とくには」
22: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 21:56:23.25 ID:ZGeaKk6G0
腐った目なんか十数年間見続けてきてますからね。耐久力だけはぴか一です。
一人納得していると、陽乃さんの通信機が耳元までやってきました。
陽乃(……娘ちゃん。分かってるとは思うけど、この男の子が八幡くんだよ)
娘(やっぱりですか)
陽乃(何が起こるか分からないから、適当にごまかして切り上げてね)
娘(はーい)
八幡「……グスッ」
娘「ちょ、ちょっと! いったいどうしたんですか!?」
八幡「グスッ……いや、はじめて女性にキモくないと言われたから……」
娘(え、えー……。どんだけ修羅の道を歩んできたんですか)
八幡「な、なあ。助けてくれたお礼とかしたいんだけど」
娘「え、いや、大丈夫ですよ。むしろ助けたというより勝手に巻き込まれたっていうか――」
八幡「……ん? その服装ってもしかして社会人?」
娘「え? ……あ、そうです! こう見えて海保で沿岸警備の最中でして。そういうわけで本官は職務に戻ります、それでは!」ダッ
八幡「あ、ちょっと――」
一人納得していると、陽乃さんの通信機が耳元までやってきました。
陽乃(……娘ちゃん。分かってるとは思うけど、この男の子が八幡くんだよ)
娘(やっぱりですか)
陽乃(何が起こるか分からないから、適当にごまかして切り上げてね)
娘(はーい)
八幡「……グスッ」
娘「ちょ、ちょっと! いったいどうしたんですか!?」
八幡「グスッ……いや、はじめて女性にキモくないと言われたから……」
娘(え、えー……。どんだけ修羅の道を歩んできたんですか)
八幡「な、なあ。助けてくれたお礼とかしたいんだけど」
娘「え、いや、大丈夫ですよ。むしろ助けたというより勝手に巻き込まれたっていうか――」
八幡「……ん? その服装ってもしかして社会人?」
娘「え? ……あ、そうです! こう見えて海保で沿岸警備の最中でして。そういうわけで本官は職務に戻ります、それでは!」ダッ
八幡「あ、ちょっと――」
23: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 21:57:35.37 ID:ZGeaKk6G0
若かりしお父さんから呼び止められた気がしましたけど、とりあえず全力で逃げました。
ひたすら走り続けて数十分……嘘です、走ったのは三十秒くらいで残りは歩いてました。
途中で公園を見つけると、私は近場のベンチに倒れこみました。近くの木陰でふとっちょの男の人がフシューと言いながら倒れこんでいますが、心配する気力はありません。
娘「はぁー、はぁー。疲れましたぁ。もう一生分は走りました。もう動けないです」
陽乃「……ねぇ娘ちゃん。ぜったい海猿のこと分かってるよね?」
娘「……なんのことでせう? とんと見当がつかぬ」
陽乃「その喋り方は私をバカにしてるんだよね。よし分かった、この戦争買おう」
娘「ごめんなさい実は知ってました。ちょっとした出来心なんです勘弁してください」
陽乃「……くそぅ、みんなして私の歳をバカにして……。私だって数字上の年齢さえいじれば若いだけの奴らなんか――」
娘「お、落ち着いてください陽乃さん。なんか通信機から邪悪な気配がでてきてます」
陽乃「……おほん。まぁ冗談は置いておいて」
娘(あの語気は絶対冗談じゃない……)
ひたすら走り続けて数十分……嘘です、走ったのは三十秒くらいで残りは歩いてました。
途中で公園を見つけると、私は近場のベンチに倒れこみました。近くの木陰でふとっちょの男の人がフシューと言いながら倒れこんでいますが、心配する気力はありません。
娘「はぁー、はぁー。疲れましたぁ。もう一生分は走りました。もう動けないです」
陽乃「……ねぇ娘ちゃん。ぜったい海猿のこと分かってるよね?」
娘「……なんのことでせう? とんと見当がつかぬ」
陽乃「その喋り方は私をバカにしてるんだよね。よし分かった、この戦争買おう」
娘「ごめんなさい実は知ってました。ちょっとした出来心なんです勘弁してください」
陽乃「……くそぅ、みんなして私の歳をバカにして……。私だって数字上の年齢さえいじれば若いだけの奴らなんか――」
娘「お、落ち着いてください陽乃さん。なんか通信機から邪悪な気配がでてきてます」
陽乃「……おほん。まぁ冗談は置いておいて」
娘(あの語気は絶対冗談じゃない……)
24: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 21:58:14.00 ID:ZGeaKk6G0
陽乃「どうする? 別に買い物がしたくないなら、帰還してもいいよ」
娘「んー、せっかく来たので、ちょっとは買い物していきます。なんか掘出し物とかあるかもしれませんし、ぬふふ」
陽乃「どう育てればこうも可愛く無くなるんだろう……」
娘「可愛くないわけじゃないです。綺麗系を目指してるだけなんです」
陽乃「綺麗系の女性は『ぬふふ』なんて笑わないんだけど――」
陽乃さんは途中で口をつぐむ。そのまま、通信機はポシェットの中に隠れてしまいました。
おそらく、人目を気にしたんでしょう。気づけば、公園の中の人もそれなりの数になっていました。
一時間ほど休憩して、ようやく体力が戻ってきました。ふらふらっとベンチから立ち上がると、公園を出ました。
走ってきた道をけだるそうに戻り、とある曲がり角に差し掛かったところでした。突如として横からの衝撃が、ドンッと私を吹き飛ばしてしまいました。
八幡「し、しまった! 大丈夫か!」
あの時の男の子の声がします。自転車から飛び降りて、慌てて駆け寄る姿をおぼろげにとらえ、そして私は目を閉じました。
娘「んー、せっかく来たので、ちょっとは買い物していきます。なんか掘出し物とかあるかもしれませんし、ぬふふ」
陽乃「どう育てればこうも可愛く無くなるんだろう……」
娘「可愛くないわけじゃないです。綺麗系を目指してるだけなんです」
陽乃「綺麗系の女性は『ぬふふ』なんて笑わないんだけど――」
陽乃さんは途中で口をつぐむ。そのまま、通信機はポシェットの中に隠れてしまいました。
おそらく、人目を気にしたんでしょう。気づけば、公園の中の人もそれなりの数になっていました。
一時間ほど休憩して、ようやく体力が戻ってきました。ふらふらっとベンチから立ち上がると、公園を出ました。
走ってきた道をけだるそうに戻り、とある曲がり角に差し掛かったところでした。突如として横からの衝撃が、ドンッと私を吹き飛ばしてしまいました。
八幡「し、しまった! 大丈夫か!」
あの時の男の子の声がします。自転車から飛び降りて、慌てて駆け寄る姿をおぼろげにとらえ、そして私は目を閉じました。
25: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 21:59:02.09 ID:ZGeaKk6G0
――
娘「う、うーん……」
陽乃「あっ、娘ちゃん起きた?」
陽乃さんの通信機が私の前をぶんぶんと動き、様子を確かめる。体の随所に湿布と、氷枕、ふかふかの布団。なんか懐かしい感じがします。あれ、私ってそういえば……
娘「はっ! こ、ここはどこですか!?」
陽乃「きみの家だよ。ただし、30年前のね」
娘「30年前……。ということは、まだ過去にいるんですね」
陽乃「そうだよ。この通信機では君を運ぶことはできないからね。かわりに、きみのお父さんがここまで運んできてくれたんだよ」
娘「そうなんですか」
陽乃「で、さっき診断機で診てみたけど、特に重症ではなさそうだね」
娘「そうですか。よかったぁ」
陽乃「もう大変だったんだから。八幡くんが救急車呼ぼうとしたから、私が変声機で君の声真似をして止めたりしてさ」
娘「え、なんでですか?」
娘「う、うーん……」
陽乃「あっ、娘ちゃん起きた?」
陽乃さんの通信機が私の前をぶんぶんと動き、様子を確かめる。体の随所に湿布と、氷枕、ふかふかの布団。なんか懐かしい感じがします。あれ、私ってそういえば……
娘「はっ! こ、ここはどこですか!?」
陽乃「きみの家だよ。ただし、30年前のね」
娘「30年前……。ということは、まだ過去にいるんですね」
陽乃「そうだよ。この通信機では君を運ぶことはできないからね。かわりに、きみのお父さんがここまで運んできてくれたんだよ」
娘「そうなんですか」
陽乃「で、さっき診断機で診てみたけど、特に重症ではなさそうだね」
娘「そうですか。よかったぁ」
陽乃「もう大変だったんだから。八幡くんが救急車呼ぼうとしたから、私が変声機で君の声真似をして止めたりしてさ」
娘「え、なんでですか?」
26: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 22:01:07.69 ID:ZGeaKk6G0
陽乃「もう忘れたの? 娘ちゃんは未来人だから、この時代じゃ保険証も身よりもない謎の人物になってるんだよ」
そういえばそうでした。私はこの時間軸には存在しないから、保険証は効かないし住所も持ってないし、なんだったら戸籍もないので税金を払わなくていいのです!
やったラッキー!
心の中で税務署職員に中指立てて勝利宣言をしていると、部屋の扉が開かれました。
陽乃(おっとやばいやばい。じゃあ私はポシェットの中に隠れてるね)
そう言うと、通信機はポシュッと音を立ててポシェットの中に入っていきました。
そして入れ替わるように、若かりし頃のお父さんがぬっと顔を出して入ってきます。
八幡「お、起きたか」
娘「はい。この通り」
手を広げ、無事だということをアピールしてみます。
八幡「さっきも言ったけど、ほんとにすまなかった。助けてもらった恩があるのに、仇で返すような結果になっちまって」
娘「ん? さっき?」
私が首をひねると、ポシェットから顔を出した通信機が肩まで登ってきました。
そういえばそうでした。私はこの時間軸には存在しないから、保険証は効かないし住所も持ってないし、なんだったら戸籍もないので税金を払わなくていいのです!
やったラッキー!
心の中で税務署職員に中指立てて勝利宣言をしていると、部屋の扉が開かれました。
陽乃(おっとやばいやばい。じゃあ私はポシェットの中に隠れてるね)
そう言うと、通信機はポシュッと音を立ててポシェットの中に入っていきました。
そして入れ替わるように、若かりし頃のお父さんがぬっと顔を出して入ってきます。
八幡「お、起きたか」
娘「はい。この通り」
手を広げ、無事だということをアピールしてみます。
八幡「さっきも言ったけど、ほんとにすまなかった。助けてもらった恩があるのに、仇で返すような結果になっちまって」
娘「ん? さっき?」
私が首をひねると、ポシェットから顔を出した通信機が肩まで登ってきました。
27: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 22:02:04.54 ID:ZGeaKk6G0
陽乃(さっきも言ったけど、娘ちゃんが気を失っている間は私が変声機を使って彼と会話してたの)
娘(あ、そうでした)
陽乃(だから適当に話を合わせておいて)
娘(りょーかいです)
娘「いえいえ、ぜんぜん。気にしないでください。こういうこともありますって」
八幡「そ、そうか。でも治療費とか――」
娘「だから、気にしなくて結構ですよ。傷も大したことないですし、ここまで看病してくれただけで充分ですから」
まぁ将来的には身内なわけですし。ここで取り合って私の将来のお小遣いに響いたら一大事です。
八幡「それで、あの、つい聞きそびれちゃったんだが、キミ、な、名前は?」
娘「名前? わたしは比企谷ゆ――」
八幡「えっ、比企谷?」
陽乃(ちょっと! あんまり未来のこと言っちゃだめだよ!)
娘(ご、ごめんなさい!)
私はあわてて口を押えました。するとお父さんもなにかを察したのか、話題を変えようとします。
娘(あ、そうでした)
陽乃(だから適当に話を合わせておいて)
娘(りょーかいです)
娘「いえいえ、ぜんぜん。気にしないでください。こういうこともありますって」
八幡「そ、そうか。でも治療費とか――」
娘「だから、気にしなくて結構ですよ。傷も大したことないですし、ここまで看病してくれただけで充分ですから」
まぁ将来的には身内なわけですし。ここで取り合って私の将来のお小遣いに響いたら一大事です。
八幡「それで、あの、つい聞きそびれちゃったんだが、キミ、な、名前は?」
娘「名前? わたしは比企谷ゆ――」
八幡「えっ、比企谷?」
陽乃(ちょっと! あんまり未来のこと言っちゃだめだよ!)
娘(ご、ごめんなさい!)
私はあわてて口を押えました。するとお父さんもなにかを察したのか、話題を変えようとします。
28: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 22:03:09.90 ID:ZGeaKk6G0
八幡「しかし……なんだ、よかったのか? 俺の家に来たいだなんて。い、いろいろと不安だろ」
お父さんが少し頬を染めて顔を背ける。
娘(え? そんなこと言ったんですか?)
陽乃(そうだよ。まさかあのまま放置しておくわけにはいかなかったからね。ま、お父さんの勘違いは適当にあしらって、デロリアンまで戻ってね)
娘(なるほど。分かりましたー)
陽乃(ふふ。しかし見てよお父さんの顔。実の娘にあんなに顔を照れちゃって)
娘(たしかに。こうしてるとお父さんも可愛いとこあったんですね)
陽乃(ふっふっふ。このまま禁断の恋に走るのもありかもね)
娘(いやいや、それはないです)
陽乃(どうかなぁ?)
陽乃(それじゃ、あとはごゆっくり若い者同士で……若い……くそっ……!)
娘(なんで最後に墓穴掘っていくんですか……。わたしのほうが居たたまれなくなりますよ)
お父さんが少し頬を染めて顔を背ける。
娘(え? そんなこと言ったんですか?)
陽乃(そうだよ。まさかあのまま放置しておくわけにはいかなかったからね。ま、お父さんの勘違いは適当にあしらって、デロリアンまで戻ってね)
娘(なるほど。分かりましたー)
陽乃(ふふ。しかし見てよお父さんの顔。実の娘にあんなに顔を照れちゃって)
娘(たしかに。こうしてるとお父さんも可愛いとこあったんですね)
陽乃(ふっふっふ。このまま禁断の恋に走るのもありかもね)
娘(いやいや、それはないです)
陽乃(どうかなぁ?)
陽乃(それじゃ、あとはごゆっくり若い者同士で……若い……くそっ……!)
娘(なんで最後に墓穴掘っていくんですか……。わたしのほうが居たたまれなくなりますよ)
29: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 22:04:16.99 ID:ZGeaKk6G0
通信機がポシェットの中にするすると入っていきます。ふとお父さんを見ると、不安そうにこちらを見ています。
そういえば、返事をしてませんでした。まぁ比企谷家では唐突に会話が終わることは珍しくないんですけどね。みんなコミュ障なので。
娘「いえ、あのままだと危なかったですから。それにこの家はやっぱり落ち着きますし」
八幡「お、落ち着く!?」
いや、まてまて勘違いするなとお父さんがひとりごちる。小声で言ってても全部聞こえてるんですけど。
あんまり変なことになる前にお暇した方がいいですね。
八幡「じ、実はおれもキミを見たときから――」
そのとき、無造作に扉が開けられました。そしてひょっこりと、女の子が顔を出します。
小町「お兄ちゃんいるー?」
顔を出したのは、若かりし頃の小町おばさんでした。壮齢となった未来の姿とは違って、とても可愛らしいです。
娘「あっ」
小町「……お兄ちゃん、ついに人さらいを……」ダッ
八幡「おい、落ち着け! 誤解だ!」
小町おばさんが「110番だ~!」って叫びながらリビングへ駆けていっちゃいました。
続いてお父さんが出ていきます。相変わらずあわただしい家系ですね。わたしも他人事じゃないですけど。
そういえば、返事をしてませんでした。まぁ比企谷家では唐突に会話が終わることは珍しくないんですけどね。みんなコミュ障なので。
娘「いえ、あのままだと危なかったですから。それにこの家はやっぱり落ち着きますし」
八幡「お、落ち着く!?」
いや、まてまて勘違いするなとお父さんがひとりごちる。小声で言ってても全部聞こえてるんですけど。
あんまり変なことになる前にお暇した方がいいですね。
八幡「じ、実はおれもキミを見たときから――」
そのとき、無造作に扉が開けられました。そしてひょっこりと、女の子が顔を出します。
小町「お兄ちゃんいるー?」
顔を出したのは、若かりし頃の小町おばさんでした。壮齢となった未来の姿とは違って、とても可愛らしいです。
娘「あっ」
小町「……お兄ちゃん、ついに人さらいを……」ダッ
八幡「おい、落ち着け! 誤解だ!」
小町おばさんが「110番だ~!」って叫びながらリビングへ駆けていっちゃいました。
続いてお父さんが出ていきます。相変わらずあわただしい家系ですね。わたしも他人事じゃないですけど。
30: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 22:05:41.67 ID:ZGeaKk6G0
10分ほど経過して、ようやく二人が戻ってきました。
小町「いやぁ、そういうことなら早く言ってよもう。誤解しちゃったじゃん」
八幡「お前がなにも聞かずに行っちまったからだろ。俺は看病してただけだ」
小町「やれやれ、そういうことにしとくよ」
八幡「え、今の説明でもまだ俺のせいになってるの?」
ぐちぐちとお父さんが文句を言っています。だけど小町おばさんが聞く耳を持っていないからか、やがて観念したらしく、私に向き直ります。
そこでようやく、私が小町おばさんと初対面だということを思い出したようです。
八幡「……あー、こいつは俺の妹の小町だ。見てのとおり騒がしい」
小町「このたびはうちのごみいちゃんがご迷惑おかけしました。妹の小町です。何もないけどゆっくりしていってね」
娘「はい、よろしくお願いします、小町おばさん」
小町「……はっ?」
娘「やば、つい」
小町「つい?」
娘「いや、これは癖というかおばさんはかっこいいし、いや今のおばさんもかわいいですし――」
小町「なんでおばさんおばさん連呼するのかな? こいつばばあ臭ぇなみたいな本音がつい出ちゃってんのかな? ……あっ?」
八幡「小町落ち着こう。目が笑ってない」
小町「やめてお兄ちゃんはなして。小町ひさしぶりにキレちゃったんだから」
小町「いやぁ、そういうことなら早く言ってよもう。誤解しちゃったじゃん」
八幡「お前がなにも聞かずに行っちまったからだろ。俺は看病してただけだ」
小町「やれやれ、そういうことにしとくよ」
八幡「え、今の説明でもまだ俺のせいになってるの?」
ぐちぐちとお父さんが文句を言っています。だけど小町おばさんが聞く耳を持っていないからか、やがて観念したらしく、私に向き直ります。
そこでようやく、私が小町おばさんと初対面だということを思い出したようです。
八幡「……あー、こいつは俺の妹の小町だ。見てのとおり騒がしい」
小町「このたびはうちのごみいちゃんがご迷惑おかけしました。妹の小町です。何もないけどゆっくりしていってね」
娘「はい、よろしくお願いします、小町おばさん」
小町「……はっ?」
娘「やば、つい」
小町「つい?」
娘「いや、これは癖というかおばさんはかっこいいし、いや今のおばさんもかわいいですし――」
小町「なんでおばさんおばさん連呼するのかな? こいつばばあ臭ぇなみたいな本音がつい出ちゃってんのかな? ……あっ?」
八幡「小町落ち着こう。目が笑ってない」
小町「やめてお兄ちゃんはなして。小町ひさしぶりにキレちゃったんだから」
31: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 22:07:00.46 ID:ZGeaKk6G0
やばい。これは私の生命の危機です。小町おばさんの記憶力はんぱないから、30年後でも覚えてそう。
娘「あー、じゃあ私はそろそろお暇しますねー!」ガチャッ
八幡「あ、せめてお礼を――」
娘「いやちょっとあれがこれなもんでそれじゃ!」シュタッ
とりあえず一目散に家を飛び出す。そのまま全力ダッシュ! ただし私の全力ダッシュは30秒が限界なので、はた目からでは全力だとは気付かれない。
なんならサラリーマンの歩きにだって負けるまであります。いや、ほんと池袋とか競歩みたいなペースで歩いてる人いますからね。
デ、デロ……車に戻ると、さっそく陽乃さんにタイムマシンの起動方法を尋ねようとポシェットを開けました。しかし、どうも通信機からの反応がありません。ツンツンとつついてみます。
娘「陽乃さーん?」
つついて叩いてこねくり回していると、やがて通信機がふらふらと起動しはじめました。
陽乃「……娘ちゃん、大変だよ!」
娘「ど、どうしたんですか」
陽乃「どうやら、未来が変わってしまったようなの……」
娘「えっ、未来が?」
陽乃「うん。キミのお父さんとお母さんが結婚しない未来へと変わってしまったの」
娘「あー、じゃあ私はそろそろお暇しますねー!」ガチャッ
八幡「あ、せめてお礼を――」
娘「いやちょっとあれがこれなもんでそれじゃ!」シュタッ
とりあえず一目散に家を飛び出す。そのまま全力ダッシュ! ただし私の全力ダッシュは30秒が限界なので、はた目からでは全力だとは気付かれない。
なんならサラリーマンの歩きにだって負けるまであります。いや、ほんと池袋とか競歩みたいなペースで歩いてる人いますからね。
デ、デロ……車に戻ると、さっそく陽乃さんにタイムマシンの起動方法を尋ねようとポシェットを開けました。しかし、どうも通信機からの反応がありません。ツンツンとつついてみます。
娘「陽乃さーん?」
つついて叩いてこねくり回していると、やがて通信機がふらふらと起動しはじめました。
陽乃「……娘ちゃん、大変だよ!」
娘「ど、どうしたんですか」
陽乃「どうやら、未来が変わってしまったようなの……」
娘「えっ、未来が?」
陽乃「うん。キミのお父さんとお母さんが結婚しない未来へと変わってしまったの」
32: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 22:09:59.16 ID:ZGeaKk6G0
娘「えっ!? ……いやいや、まさか――」
陽乃「嘘だと思うなら、自分の写真を見てみなよ」
そう言われて、私は慌てて自分のタブレットを起動して家族写真を開きます。すると、そこにあったはずの自分の頭が消えかかっていました。
娘「わ、私の顔が消えてる……!」
陽乃「お父さんとお母さんが結婚しないなら、子供たちも生まれるはずがないからね。やがては娘ちゃんの体も消えていくかも」
娘「そ、そんな!? どうして」
陽乃「私も調べてみたんだ。すると実は、今日の昼間にお父さんは転んで怪我をするはずだったんだ」
陽乃「その後、お父さんの怪我をお母さんが手当することで二人の距離は縮まって、間もなく付き合うことになるはずだったんだよ」
陽乃「でも今日、お父さんは怪我をしなかったよね」
娘「……あっ!」
そうでした。私が下敷きになったおかげで、お父さんは怪我をしていませんでした。
陽乃「そしてさらに残念なことに、お父さんは助けてくれたキミにゾッコンになってしまったみたい」
娘「うわぁ……ヘビーです……」
陽乃「ドン引きしている場合じゃないよ! このままだと君のお父さんはお母さんと付き合わないから、娘ちゃんが生まれることもない」
陽乃「そうなると、娘ちゃんは未来に戻ってこられないんだよ」
娘「え、そうなんですか!?」
陽乃「嘘だと思うなら、自分の写真を見てみなよ」
そう言われて、私は慌てて自分のタブレットを起動して家族写真を開きます。すると、そこにあったはずの自分の頭が消えかかっていました。
娘「わ、私の顔が消えてる……!」
陽乃「お父さんとお母さんが結婚しないなら、子供たちも生まれるはずがないからね。やがては娘ちゃんの体も消えていくかも」
娘「そ、そんな!? どうして」
陽乃「私も調べてみたんだ。すると実は、今日の昼間にお父さんは転んで怪我をするはずだったんだ」
陽乃「その後、お父さんの怪我をお母さんが手当することで二人の距離は縮まって、間もなく付き合うことになるはずだったんだよ」
陽乃「でも今日、お父さんは怪我をしなかったよね」
娘「……あっ!」
そうでした。私が下敷きになったおかげで、お父さんは怪我をしていませんでした。
陽乃「そしてさらに残念なことに、お父さんは助けてくれたキミにゾッコンになってしまったみたい」
娘「うわぁ……ヘビーです……」
陽乃「ドン引きしている場合じゃないよ! このままだと君のお父さんはお母さんと付き合わないから、娘ちゃんが生まれることもない」
陽乃「そうなると、娘ちゃんは未来に戻ってこられないんだよ」
娘「え、そうなんですか!?」
33: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 22:11:41.20 ID:ZGeaKk6G0
陽乃「あくまでも推測だけどね。娘ちゃんは過去という時空にいるからまだ体を保っているんだと考えられるんだ」
陽乃「写真のように消えている未来に戻ってくると、写真の通りの現象が起きるかもしれない」
娘「そんな……。自分でも存在感の薄さは自覚してたけど、まさか存在が無くなる日が来るなんて……」
陽乃「げ、元気出して! まだ消えると決まったわけじゃないよ。要は、もう一度お父さんとお母さんが付き合うように仕向ければいいんだよ」
娘「え、できるんですか。そんなことが」
陽乃「私の記憶では、この後にある生徒会主催のパーティで、キミのお父さんとお母さんは正式に付き合うことになるんだ」
陽乃「そこで付き合うように仕向けられれば、娘ちゃんの存在も取り戻すことができるはずだよ」
娘「パーティ……あ、お父さんがよく言ってた深海魚パーティのことだ!」
陽乃「あれ……? そんなダサいネーミングだったっけ」
娘「つまり、私が恋のキューピッドになればいいわけなんですね!」
陽乃「そういうこと! わたしも手伝うから、なんとか二人の恋を成就させよー!」
娘「おー!」
そう考えると、なんだか気が楽になってきます。両親はなんだかんだでラブラブですし、ちょっと押すだけでなんとかできそうです。
陽乃「写真のように消えている未来に戻ってくると、写真の通りの現象が起きるかもしれない」
娘「そんな……。自分でも存在感の薄さは自覚してたけど、まさか存在が無くなる日が来るなんて……」
陽乃「げ、元気出して! まだ消えると決まったわけじゃないよ。要は、もう一度お父さんとお母さんが付き合うように仕向ければいいんだよ」
娘「え、できるんですか。そんなことが」
陽乃「私の記憶では、この後にある生徒会主催のパーティで、キミのお父さんとお母さんは正式に付き合うことになるんだ」
陽乃「そこで付き合うように仕向けられれば、娘ちゃんの存在も取り戻すことができるはずだよ」
娘「パーティ……あ、お父さんがよく言ってた深海魚パーティのことだ!」
陽乃「あれ……? そんなダサいネーミングだったっけ」
娘「つまり、私が恋のキューピッドになればいいわけなんですね!」
陽乃「そういうこと! わたしも手伝うから、なんとか二人の恋を成就させよー!」
娘「おー!」
そう考えると、なんだか気が楽になってきます。両親はなんだかんだでラブラブですし、ちょっと押すだけでなんとかできそうです。
35: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 22:12:21.10 ID:ZGeaKk6G0
問題点があるとすれば――
娘「ちなみに私って、今日はどこで寝ましょう……?」
陽乃「たしかトランクに屈光カーテンが入ってたはずだから、それでデロリアンを隠して中で寝ればいいよ」
娘「うぃっす。あ、もしかしてこの中にお風呂キットとかも入ってたりとか――」
陽乃「しないね。キャンピングカーじゃないし」
娘「え。じゃあお風呂どうすればいいんですか!」
陽乃「あー、左端にキレイキレイとウェットティッシュがあるからそれで頑張って」
娘「はっ?」
陽乃「じゃあお姉さんもう寝るから、じゃーねー」
娘「へっ? ちょっと、おい」
「……」
娘「なんて日だ!」
陽乃「……古」プツン
娘「えっ」
娘「ちなみに私って、今日はどこで寝ましょう……?」
陽乃「たしかトランクに屈光カーテンが入ってたはずだから、それでデロリアンを隠して中で寝ればいいよ」
娘「うぃっす。あ、もしかしてこの中にお風呂キットとかも入ってたりとか――」
陽乃「しないね。キャンピングカーじゃないし」
娘「え。じゃあお風呂どうすればいいんですか!」
陽乃「あー、左端にキレイキレイとウェットティッシュがあるからそれで頑張って」
娘「はっ?」
陽乃「じゃあお姉さんもう寝るから、じゃーねー」
娘「へっ? ちょっと、おい」
「……」
娘「なんて日だ!」
陽乃「……古」プツン
娘「えっ」
36: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 22:12:59.68 ID:ZGeaKk6G0
――翌朝。比企谷家
気づけば、部屋の中が陽の光りで照らされていた。のそりとベッドから起き上がる。
結局、昨夜はあの子のことを考えていたら目がさえてしまって、眠ることができなかった。
八幡「……起きるか!」
眠れなかったわりに、だいぶ清々しい朝に感じる。こんなに気持ちのいい朝は何年振りだろうか。そう、あれはまだ俺が胎児だったころ……、いや、やめよう。なんか悲しくなる。
どうも深夜のテンションが若干まじっているらしく、ボクサーのファイティングポーズで洗面台まで下りていく。途中、ゴミを見るような目の妹がいたが気にしない。
八幡「おはよう! 小町」
小町「あぁ……もう起きちゃったの……」
八幡「あれ、ひさびさに早く起きたらその扱い? ちょっとは兄を褒めてくれよ」
小町「わー妹と同じ時間に起きれるお兄ちゃんすごーい。はい、おわり」
八幡「おーけーありがとう。ちょっと洗面台で涙流してくる」
妹のありがたい言葉を胸に、目を一層腐らせて歩いていく。あれ、今日は洗っても洗っても涙が止まらねぇな。
気づけば、部屋の中が陽の光りで照らされていた。のそりとベッドから起き上がる。
結局、昨夜はあの子のことを考えていたら目がさえてしまって、眠ることができなかった。
八幡「……起きるか!」
眠れなかったわりに、だいぶ清々しい朝に感じる。こんなに気持ちのいい朝は何年振りだろうか。そう、あれはまだ俺が胎児だったころ……、いや、やめよう。なんか悲しくなる。
どうも深夜のテンションが若干まじっているらしく、ボクサーのファイティングポーズで洗面台まで下りていく。途中、ゴミを見るような目の妹がいたが気にしない。
八幡「おはよう! 小町」
小町「あぁ……もう起きちゃったの……」
八幡「あれ、ひさびさに早く起きたらその扱い? ちょっとは兄を褒めてくれよ」
小町「わー妹と同じ時間に起きれるお兄ちゃんすごーい。はい、おわり」
八幡「おーけーありがとう。ちょっと洗面台で涙流してくる」
妹のありがたい言葉を胸に、目を一層腐らせて歩いていく。あれ、今日は洗っても洗っても涙が止まらねぇな。
37: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 22:13:36.57 ID:ZGeaKk6G0
顔を洗い、着替えを済ましてテーブルに着くと、妹が首をひねってこちらをうかがってくる。
八幡「どうした?」
小町「いや、なんかお兄ちゃんの顔がキモいなぁって。なんかあった?」
八幡「たった今な」
相変わらず小町の言葉はど直球である。あやうくメンタルを持っていかれて引きこもるところだった。
小町「むむぅ。さっきからお兄ちゃん、顔がにやけてるよ。絶対なんかあったでしょ」
八幡「えっ分かる? わかっちゃう?」
小町「あ、これ聞いたらめんどくさいパターンだ」
八幡「そういうのは心の中でつぶやこう? な? 親しき仲にも礼儀ありっていうし」
小町「ちっちっち。衣食足りて礼節を知るとも言うよ。つまり、小町からの礼儀がほしいならお洋服とごちそうを要求します!」
八幡「いや、そのことわざ、そういう意味じゃないからね?」
八幡「どうした?」
小町「いや、なんかお兄ちゃんの顔がキモいなぁって。なんかあった?」
八幡「たった今な」
相変わらず小町の言葉はど直球である。あやうくメンタルを持っていかれて引きこもるところだった。
小町「むむぅ。さっきからお兄ちゃん、顔がにやけてるよ。絶対なんかあったでしょ」
八幡「えっ分かる? わかっちゃう?」
小町「あ、これ聞いたらめんどくさいパターンだ」
八幡「そういうのは心の中でつぶやこう? な? 親しき仲にも礼儀ありっていうし」
小町「ちっちっち。衣食足りて礼節を知るとも言うよ。つまり、小町からの礼儀がほしいならお洋服とごちそうを要求します!」
八幡「いや、そのことわざ、そういう意味じゃないからね?」
38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/22(日) 22:14:59.53 ID:XGTcrzLQO
29年後ってことは陽乃さんはアラフィ…
39: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 22:15:05.59 ID:ZGeaKk6G0
最近の妹は受験期で語彙が増えたのか、俺の罵倒もバリエーションが多彩となっている。
いやね、妹とは気のおけない仲であることは自覚しているが、少しは置いてみよう?
なんなら俺が距離を置こう。いや、たぶんこれ以上置いたら家から飛び出るな、俺。
小町「で、お兄ちゃんなにかあったの?」
八幡「ふっふっふ。聞いて驚け。どうやらお兄ちゃんは恋をしてしまったらしい」
小町「またその話ぃ? もう聞き飽きたよ」
八幡「中学以来だからまたじゃないだろ。ってか、なんで自主的に恋愛関係のこと話そうとするとドン引きすんの?」
小町「いやぁ、こういうのは嫌がる姿を見るのが良いんだって」
八幡「うわぁ……」
小町「で、それで? お相手は結衣さん? 雪乃さん?」
八幡「昨日の子」
小町「……はっ?」
八幡「だから、昨日うちに来た子だって」
小町「あの小町のことおばさん扱いしたファッションセンスバツの糞ババアのこと?」
八幡「小町さん、まだ怒ってるの?」
小町「怒ってないよ? ねぇ、それマジで言ってるの? 小町とババアどっちが大切なの?」
八幡「いや、なんでそうなるんだ……。あとババアじゃない」
いやね、妹とは気のおけない仲であることは自覚しているが、少しは置いてみよう?
なんなら俺が距離を置こう。いや、たぶんこれ以上置いたら家から飛び出るな、俺。
小町「で、お兄ちゃんなにかあったの?」
八幡「ふっふっふ。聞いて驚け。どうやらお兄ちゃんは恋をしてしまったらしい」
小町「またその話ぃ? もう聞き飽きたよ」
八幡「中学以来だからまたじゃないだろ。ってか、なんで自主的に恋愛関係のこと話そうとするとドン引きすんの?」
小町「いやぁ、こういうのは嫌がる姿を見るのが良いんだって」
八幡「うわぁ……」
小町「で、それで? お相手は結衣さん? 雪乃さん?」
八幡「昨日の子」
小町「……はっ?」
八幡「だから、昨日うちに来た子だって」
小町「あの小町のことおばさん扱いしたファッションセンスバツの糞ババアのこと?」
八幡「小町さん、まだ怒ってるの?」
小町「怒ってないよ? ねぇ、それマジで言ってるの? 小町とババアどっちが大切なの?」
八幡「いや、なんでそうなるんだ……。あとババアじゃない」
40: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 22:16:33.83 ID:ZGeaKk6G0
小町「……はぁ。それで、どうして好きになったの?」
八幡「まあ昨日、訳あってあの子を背負うことになったわけなんだが、なんというか母性本能というか父性本能が働いてな。ずっと守っていたいという気持ちが沸々と湧き上がってきたんだ」
小町「えー、そんだけ? お兄ちゃん女子とのふれあいが少ないから、また誤解してるだけじゃないの?」
八幡「いや、なんかあの子とは初対面という感じがしないんだ。昔から知ってたようなこの感じ……そう、これは運命! またの名をデスティニー」
小町「お兄ちゃんがおかしくなっちゃった……」
八幡「今まで俺がこんな気持ちを抱いたのは妹と戸塚以外にいなかったんだが、今度はちゃんとした女の子! つまり合法なんだ!」
小町「だめだこのお兄ちゃん……。好きな人を合法かどうかで判断してる……」
小町がため息をつき、トーストをかじる。
小町「で、お兄ちゃんはこれからあの子に告白したりするわけ?」
八幡「いや、俺は数々の恋愛経験から、もう告白したりしない」
小町「え、そんなあっさり諦めちゃうの? それはそれでポイント低いような」
八幡「おはようからおやすみまで遠くから眺めているだけにする」
小町「うわぁ……これガチのストーカーだ……」
小町がおびえた目で身をのけぞる。え、軽い八幡ジョークなのに、なんでそんな信憑性もってドン引くの?
十数年間培った信頼関係はいずこへ……。まぁ築き上げた記憶ないんだけど。
八幡「まあ昨日、訳あってあの子を背負うことになったわけなんだが、なんというか母性本能というか父性本能が働いてな。ずっと守っていたいという気持ちが沸々と湧き上がってきたんだ」
小町「えー、そんだけ? お兄ちゃん女子とのふれあいが少ないから、また誤解してるだけじゃないの?」
八幡「いや、なんかあの子とは初対面という感じがしないんだ。昔から知ってたようなこの感じ……そう、これは運命! またの名をデスティニー」
小町「お兄ちゃんがおかしくなっちゃった……」
八幡「今まで俺がこんな気持ちを抱いたのは妹と戸塚以外にいなかったんだが、今度はちゃんとした女の子! つまり合法なんだ!」
小町「だめだこのお兄ちゃん……。好きな人を合法かどうかで判断してる……」
小町がため息をつき、トーストをかじる。
小町「で、お兄ちゃんはこれからあの子に告白したりするわけ?」
八幡「いや、俺は数々の恋愛経験から、もう告白したりしない」
小町「え、そんなあっさり諦めちゃうの? それはそれでポイント低いような」
八幡「おはようからおやすみまで遠くから眺めているだけにする」
小町「うわぁ……これガチのストーカーだ……」
小町がおびえた目で身をのけぞる。え、軽い八幡ジョークなのに、なんでそんな信憑性もってドン引くの?
十数年間培った信頼関係はいずこへ……。まぁ築き上げた記憶ないんだけど。
41: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 22:17:20.78 ID:ZGeaKk6G0
とりあえずまた警察にかけようとしている小町をなだめていると、あっという間に登校時間になってしまった。
家を出る前に小町から、「お兄ちゃんがあの子と付き合うなら、もう一生お兄ちゃんとは口をきいてあげないから。なんなら家出するまであるから、大志くんちに」
などという超ド級の発言をいただき、現在究極の二択に頭を悩ませている。
とりあえず打てる手段として、大志が肥やしの山に突っ込む呪いはかけておいた。
しかしあの子、社会人とは言ってたけど、顔は幼かったし、手当しているときに見た感じ、あの服は制服ではなさそうだったな。
そして結局、あの子の正体は分からずじまいだ。どこに住んでいるのかや名前さえも知らない。いや、名前は途中まで言いかけてたな。止めちゃったけど。
俺に名前を知られるのって、そんな嫌だったのか。いや、それならそもそも家に上がるわけないし。
しかし、比企谷か……。まさか同じ苗字とは思わなかった。親戚か? いや、あんな子はいなかったはず……。
下の名前はなんだろうか。ゆ、とは言っていたから、ゆ、ゆ……
結衣「やっはろー」
八幡「ゆい!」
結衣「ほへっ!?」
突如として素っ頓狂な声が聞こえる。ああ、ゆいってこいつの名前か。
家を出る前に小町から、「お兄ちゃんがあの子と付き合うなら、もう一生お兄ちゃんとは口をきいてあげないから。なんなら家出するまであるから、大志くんちに」
などという超ド級の発言をいただき、現在究極の二択に頭を悩ませている。
とりあえず打てる手段として、大志が肥やしの山に突っ込む呪いはかけておいた。
しかしあの子、社会人とは言ってたけど、顔は幼かったし、手当しているときに見た感じ、あの服は制服ではなさそうだったな。
そして結局、あの子の正体は分からずじまいだ。どこに住んでいるのかや名前さえも知らない。いや、名前は途中まで言いかけてたな。止めちゃったけど。
俺に名前を知られるのって、そんな嫌だったのか。いや、それならそもそも家に上がるわけないし。
しかし、比企谷か……。まさか同じ苗字とは思わなかった。親戚か? いや、あんな子はいなかったはず……。
下の名前はなんだろうか。ゆ、とは言っていたから、ゆ、ゆ……
結衣「やっはろー」
八幡「ゆい!」
結衣「ほへっ!?」
突如として素っ頓狂な声が聞こえる。ああ、ゆいってこいつの名前か。
42: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 22:18:06.84 ID:ZGeaKk6G0
八幡「お、うす」
結衣「あ、うん。じゃなくて今、あたしのこと名前で呼んだ……?」
八幡「いや、わるい。ちょっと考えごとしてたらつい」
結衣「か、考えごと……? え、まさか――」
由比ヶ浜が身をよじってこちらを見つめてくる。いつもはそんな仕草を見せられると、おっぱいに目がいってしまうのだが、今は泰然自若と動かされない。
ふっ、これが大人の余裕というやつか。
八幡「……なあ、由比ヶ浜は好きな人ができたことってあるか?」
結衣「えっ!? ひ、ヒッキーがそういうの聞いてくるって珍しいね」
八幡「いや、ちょっとな」
たしかにそうだ。誰かと今の気持ちを共有したくて、つい柄にもないことをきいてしまう。
結衣「……あ、あたしはあるよ」
由比ヶ浜が少しもじもじとした様子で上目遣いにこちらを見る。……ほう、ここで間髪入れずに斜め45度の上目遣い、こやつ手練れだな。
結衣「あ、うん。じゃなくて今、あたしのこと名前で呼んだ……?」
八幡「いや、わるい。ちょっと考えごとしてたらつい」
結衣「か、考えごと……? え、まさか――」
由比ヶ浜が身をよじってこちらを見つめてくる。いつもはそんな仕草を見せられると、おっぱいに目がいってしまうのだが、今は泰然自若と動かされない。
ふっ、これが大人の余裕というやつか。
八幡「……なあ、由比ヶ浜は好きな人ができたことってあるか?」
結衣「えっ!? ひ、ヒッキーがそういうの聞いてくるって珍しいね」
八幡「いや、ちょっとな」
たしかにそうだ。誰かと今の気持ちを共有したくて、つい柄にもないことをきいてしまう。
結衣「……あ、あたしはあるよ」
由比ヶ浜が少しもじもじとした様子で上目遣いにこちらを見る。……ほう、ここで間髪入れずに斜め45度の上目遣い、こやつ手練れだな。
43: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 22:19:18.74 ID:ZGeaKk6G0
とりあえず早くも思考回路はショート寸前、今すぐ浮気心が頭をもたげてきそうだったので、慌てて視線を下げる。
いや、別に目をそらしただけだから。その下でたぷたぷ揺れるナニを見たいわけじゃないから。あぁ、大人の余裕はいずこへ……。
とりあえず心の煩悩を奥底に封印し、つとめて冷静に返事をする。
八幡「……そうなのか。いいよな、この感じ。今ならリア充への恨み節も一小節だけで済みそうだ」
結衣「恨むのは確定なんだ……って、えっ!? ヒッキーまさか恋を――」
八幡「あっ! 戸塚~!」
なんか由比ヶ浜が言いかけてた気がするが、もはやその言葉など耳に入らない。戸塚を見たら走り出すのはしょうがない。
戸塚とはいつだって以心電信、心はイケナイ太陽なんだ!
結衣「ヒッキーがスキップしてる……。これはゆきのんに報告しなきゃ!」
いや、別に目をそらしただけだから。その下でたぷたぷ揺れるナニを見たいわけじゃないから。あぁ、大人の余裕はいずこへ……。
とりあえず心の煩悩を奥底に封印し、つとめて冷静に返事をする。
八幡「……そうなのか。いいよな、この感じ。今ならリア充への恨み節も一小節だけで済みそうだ」
結衣「恨むのは確定なんだ……って、えっ!? ヒッキーまさか恋を――」
八幡「あっ! 戸塚~!」
なんか由比ヶ浜が言いかけてた気がするが、もはやその言葉など耳に入らない。戸塚を見たら走り出すのはしょうがない。
戸塚とはいつだって以心電信、心はイケナイ太陽なんだ!
結衣「ヒッキーがスキップしてる……。これはゆきのんに報告しなきゃ!」
44: ◆7chPYS4ayA 2016/05/22(日) 22:21:06.06 ID:ZGeaKk6G0
本日の投下はここまでです。
次は来週の土日あたりで投下したいと思います。
次は来週の土日あたりで投下したいと思います。
45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/22(日) 22:26:28.91 ID:xwSXoS67o
乙です
期待
期待
47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/23(月) 00:38:57.17 ID:yWVwz23so
いいぞ
48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/23(月) 09:24:34.17 ID:AvZG4/nNO
おつ
50: ◆7chPYS4ayA 2016/05/28(土) 21:06:15.85 ID:TTgq7ohr0
遅くなりました。
それでは投下を開始します。
それでは投下を開始します。
51: ◆7chPYS4ayA 2016/05/28(土) 21:06:50.51 ID:TTgq7ohr0
――デロリアン
陽乃「娘ちゃん起きてー」
陽乃さんの声で、目が覚めました。
ふと周りを見ると、球型の通信機がかまびすしく飛び回ってきます。しかし、わたしの蚊にも動じない安眠スキルの前には無力なのです。寝よ……。
陽乃「起きろー」ブンブン
娘「もうちょっと……」
陽乃「しょうがない。……本日、新しく松戸ナンバーが誕生しました」
娘「!」ガバッ
陽乃「う・そ」
娘「……なんだ、まだ野田ナンバーか……」ポスッ
陽乃「自分でやっといてなんだけど、野田市民に謝った方がいいよ」
娘「あとであとで……」zz
陽乃「寝ちゃだめだよ! もうお昼だよ!」ブンブン
娘「わたしの体内時計はグリニッジ標準時なんで……」
陽乃「なんでイギリスに合わせてるのさ……。ほら、起きた起きた」ボスボスッ
娘「あう、いけず」
陽乃さんの通信機がおなかに体当たりをかましてきました。さすがにもう無理かと思い、起き上がります。
陽乃「娘ちゃん起きてー」
陽乃さんの声で、目が覚めました。
ふと周りを見ると、球型の通信機がかまびすしく飛び回ってきます。しかし、わたしの蚊にも動じない安眠スキルの前には無力なのです。寝よ……。
陽乃「起きろー」ブンブン
娘「もうちょっと……」
陽乃「しょうがない。……本日、新しく松戸ナンバーが誕生しました」
娘「!」ガバッ
陽乃「う・そ」
娘「……なんだ、まだ野田ナンバーか……」ポスッ
陽乃「自分でやっといてなんだけど、野田市民に謝った方がいいよ」
娘「あとであとで……」zz
陽乃「寝ちゃだめだよ! もうお昼だよ!」ブンブン
娘「わたしの体内時計はグリニッジ標準時なんで……」
陽乃「なんでイギリスに合わせてるのさ……。ほら、起きた起きた」ボスボスッ
娘「あう、いけず」
陽乃さんの通信機がおなかに体当たりをかましてきました。さすがにもう無理かと思い、起き上がります。
52: ◆7chPYS4ayA 2016/05/28(土) 21:08:58.59 ID:TTgq7ohr0
陽乃「今日はお父さんたちの学校に行くよ」
娘「えー。過去に戻ってまで学校に行きたくないです」
陽乃「そんなこと言わない。二人をくっつけるためにも、今日はお父さんたちの入っていた奉仕部へ偵察に行こう」
娘「ああ、奉仕部(笑)ですね」
陽乃「イントネーションおかしくない?」
娘「比企谷家のデフォです。ちなみに、ここからお母さんに足蹴にされるまでがお父さんの日常です」
陽乃「キミのお父さんも懲りないね……」
ついでにお父さん曰く、お前が真似しだしてから蹴り飛ばされるようになったとのことです。
でも、私が小さいときに覚えさせた言葉が「パパ」と「ほうしぶ(笑)」らしいので、自業自得というやつです。
娘「えー。過去に戻ってまで学校に行きたくないです」
陽乃「そんなこと言わない。二人をくっつけるためにも、今日はお父さんたちの入っていた奉仕部へ偵察に行こう」
娘「ああ、奉仕部(笑)ですね」
陽乃「イントネーションおかしくない?」
娘「比企谷家のデフォです。ちなみに、ここからお母さんに足蹴にされるまでがお父さんの日常です」
陽乃「キミのお父さんも懲りないね……」
ついでにお父さん曰く、お前が真似しだしてから蹴り飛ばされるようになったとのことです。
でも、私が小さいときに覚えさせた言葉が「パパ」と「ほうしぶ(笑)」らしいので、自業自得というやつです。
53: ◆7chPYS4ayA 2016/05/28(土) 21:09:32.55 ID:TTgq7ohr0
閑話休題。
娘「学校にはどうやって侵入しましょう? 私が通うのはもっと先ですし、制服も持ってきてないですよ」
陽乃「とりあえず屈光カーテンで透明になって、保健室まで行こう。あそこに予備の制服があるから、それに着替えて生徒になりすまそう」
娘「ん? それだったら、屈光カーテンを被ったままでもいいんじゃないですか?」
陽乃「なにいってるの。学校の廊下は竹下通りなみに通行量がおおいんだよ。透明になったら気づかれないから、絶対にぶつかるよ」
娘「え? わりと普段から気づかれてないから変わらないですよ」
陽乃「ごめん悪かった、今の話はなしにしよう」
唐突に陽乃さんが優しくなりました。まったく、ぼっちはどこもかしこも地雷原なのだから気をつけてほしいものです。
それからしばらくのち、私たちは高校へ向かいました。
娘「学校にはどうやって侵入しましょう? 私が通うのはもっと先ですし、制服も持ってきてないですよ」
陽乃「とりあえず屈光カーテンで透明になって、保健室まで行こう。あそこに予備の制服があるから、それに着替えて生徒になりすまそう」
娘「ん? それだったら、屈光カーテンを被ったままでもいいんじゃないですか?」
陽乃「なにいってるの。学校の廊下は竹下通りなみに通行量がおおいんだよ。透明になったら気づかれないから、絶対にぶつかるよ」
娘「え? わりと普段から気づかれてないから変わらないですよ」
陽乃「ごめん悪かった、今の話はなしにしよう」
唐突に陽乃さんが優しくなりました。まったく、ぼっちはどこもかしこも地雷原なのだから気をつけてほしいものです。
それからしばらくのち、私たちは高校へ向かいました。
54: ◆7chPYS4ayA 2016/05/28(土) 21:10:24.82 ID:TTgq7ohr0
――総武高校廊下
陽乃(おー、旧式の制服も似合ってるね)コソコソ
陽乃さんの通信機が、なめるように私の周りを飛び回ってきます。保健室から借りた制服は、私にぴったりでした。
娘(なんたって現役女子高生ですから。そこらのコスプレには負けませんよ)エッヘン
陽乃(懐かしいなぁ。私だって高校時代はね、かなりモテ――)
娘(まーたはじまったよ……)
陽乃(あっ?)
娘(ほ、ほら陽乃さん、そろそろ教室付近ですからお静かに)
陽乃(くそう。昔はこんなキャラじゃなかったのに……)
時の流れの残酷さを垣間見たような気がしますが、今は気にしません。気にしたらもらい泣きしそうです。
陽乃(おー、旧式の制服も似合ってるね)コソコソ
陽乃さんの通信機が、なめるように私の周りを飛び回ってきます。保健室から借りた制服は、私にぴったりでした。
娘(なんたって現役女子高生ですから。そこらのコスプレには負けませんよ)エッヘン
陽乃(懐かしいなぁ。私だって高校時代はね、かなりモテ――)
娘(まーたはじまったよ……)
陽乃(あっ?)
娘(ほ、ほら陽乃さん、そろそろ教室付近ですからお静かに)
陽乃(くそう。昔はこんなキャラじゃなかったのに……)
時の流れの残酷さを垣間見たような気がしますが、今は気にしません。気にしたらもらい泣きしそうです。
55: ◆7chPYS4ayA 2016/05/28(土) 21:11:34.66 ID:TTgq7ohr0
廊下のつきあたりの階段を上っていくと奉仕部らしいです。教室前を通るときは父祖伝来のステルスヒッキーを使っていきます。
授業中なのでお口はチャック。授業中じゃなくてもチャックです。あれ、私学校で最後に話したのはいつだっけ……。
もたげた疑問を心の奥底へ封印しているそのとき、チャイムが鳴りました。どうやらお昼休みのようです。
八幡「ふぅ」ガラガラッ
陽乃(あっ)
娘(げっ、お父さんだ)
八幡「ん?」チラッ
娘(ややばいです!)クルリッ
八幡「……もしかして」ジーッ
陽乃(まずいよ。きみのお父さんがすごい疑ってる!)
娘(大丈夫です、任せてください!)
八幡「なあ――」
娘「はぁ~やっさいもっさい やっさいもっさい」ソレソレッ
八幡「……なんだ、ただの危ないやつか」スタスタッ
娘(ふぅ。なんとか事なきをえましたね)
陽乃(……なんか娘ちゃんに友達ができない理由が分かった気がする)
娘(えっ)
授業中なのでお口はチャック。授業中じゃなくてもチャックです。あれ、私学校で最後に話したのはいつだっけ……。
もたげた疑問を心の奥底へ封印しているそのとき、チャイムが鳴りました。どうやらお昼休みのようです。
八幡「ふぅ」ガラガラッ
陽乃(あっ)
娘(げっ、お父さんだ)
八幡「ん?」チラッ
娘(ややばいです!)クルリッ
八幡「……もしかして」ジーッ
陽乃(まずいよ。きみのお父さんがすごい疑ってる!)
娘(大丈夫です、任せてください!)
八幡「なあ――」
娘「はぁ~やっさいもっさい やっさいもっさい」ソレソレッ
八幡「……なんだ、ただの危ないやつか」スタスタッ
娘(ふぅ。なんとか事なきをえましたね)
陽乃(……なんか娘ちゃんに友達ができない理由が分かった気がする)
娘(えっ)
56: ◆7chPYS4ayA 2016/05/28(土) 21:14:59.99 ID:TTgq7ohr0
――昼休み 奉仕部前廊下
娘(ここが奉仕部なんですね)
陽乃(私の記憶が正しければね。ちょっと扉を引いて覗いてみて)
娘(女の子が二人ほどお昼をしていますね。あっ。お母さんらしき人がいましたよ)
陽乃(ほんとだ。いやぁ若いねぇ)
娘(ねっねっ。こうしてみると私とお母さんって似てません?)
陽乃(……それは置いといて。ほら、きみのお父さんの話題になったよ。集音機能使うから静かにね)
娘(え、あれ、ちょっと――)
娘(ここが奉仕部なんですね)
陽乃(私の記憶が正しければね。ちょっと扉を引いて覗いてみて)
娘(女の子が二人ほどお昼をしていますね。あっ。お母さんらしき人がいましたよ)
陽乃(ほんとだ。いやぁ若いねぇ)
娘(ねっねっ。こうしてみると私とお母さんって似てません?)
陽乃(……それは置いといて。ほら、きみのお父さんの話題になったよ。集音機能使うから静かにね)
娘(え、あれ、ちょっと――)
57: ◆7chPYS4ayA 2016/05/28(土) 21:15:31.56 ID:TTgq7ohr0
――奉仕部 室内
雪乃「比企谷くん……恋……? ごめんなさい、理解力がなくて。その2つの単語はどこをどう結び付けたらつながるのかしら?」
結衣「やっぱりそう思う? あたしも最初はびっくりしたんだけどさ。朝からテンションが高いというか、休み時間に恋するフォーチュンクッキー歌ってたし」
雪乃「なにかしら……おぞましい言葉が聞こえた気がするわ」
結衣「あたしに好きな人聞いてきたし、ゆ、結衣って呼んできたり……」
雪乃「なるほど。今までは視界に入らない存在感だったのが、見るに堪えられないくらいの鬱陶しさに変貌を遂げたのね」
結衣「あれ……あたしそんな悪意ある感じで伝えたっけ……。でもまぁそんな感じなんだよ!」
雪乃「そう。なら今日の放課後、比企谷くんと一度“お話”しましょうか。もしも比企谷くんが本当に恋をしているならば、対象者を守らなければいけないものね」
雪乃「比企谷くん……恋……? ごめんなさい、理解力がなくて。その2つの単語はどこをどう結び付けたらつながるのかしら?」
結衣「やっぱりそう思う? あたしも最初はびっくりしたんだけどさ。朝からテンションが高いというか、休み時間に恋するフォーチュンクッキー歌ってたし」
雪乃「なにかしら……おぞましい言葉が聞こえた気がするわ」
結衣「あたしに好きな人聞いてきたし、ゆ、結衣って呼んできたり……」
雪乃「なるほど。今までは視界に入らない存在感だったのが、見るに堪えられないくらいの鬱陶しさに変貌を遂げたのね」
結衣「あれ……あたしそんな悪意ある感じで伝えたっけ……。でもまぁそんな感じなんだよ!」
雪乃「そう。なら今日の放課後、比企谷くんと一度“お話”しましょうか。もしも比企谷くんが本当に恋をしているならば、対象者を守らなければいけないものね」
58: ◆7chPYS4ayA 2016/05/28(土) 21:17:01.49 ID:TTgq7ohr0
――奉仕部前 廊下
陽乃(どうやらきみのお母さん、それなりに関心はあるみたい)
娘(お父さんって、30年前からお母さんの尻に敷かれてたんですね)
陽乃(むしろ尻に敷かれてからが本領発揮みたいなところあるからね、きみのお父さん)
陽乃(さて、つぎは放課後にまたこようか)
娘(うーす)
陽乃(なんて女子力の低い返事……)
娘(あ、ありのままでいくスタイルなんです)
陽乃(それを逃げというんだよ)
娘(逃げじゃないです。選択と集中です。容姿と振る舞いと中身は捨てただけです)
陽乃(なにが残ったのさ……)
まるで親の顔がみたいとばかりに呆れ果てていますね。あそこにいますよ、あそこ。
陽乃(どうやらきみのお母さん、それなりに関心はあるみたい)
娘(お父さんって、30年前からお母さんの尻に敷かれてたんですね)
陽乃(むしろ尻に敷かれてからが本領発揮みたいなところあるからね、きみのお父さん)
陽乃(さて、つぎは放課後にまたこようか)
娘(うーす)
陽乃(なんて女子力の低い返事……)
娘(あ、ありのままでいくスタイルなんです)
陽乃(それを逃げというんだよ)
娘(逃げじゃないです。選択と集中です。容姿と振る舞いと中身は捨てただけです)
陽乃(なにが残ったのさ……)
まるで親の顔がみたいとばかりに呆れ果てていますね。あそこにいますよ、あそこ。
59: ◆7chPYS4ayA 2016/05/28(土) 21:22:56.23 ID:TTgq7ohr0
――放課後
帰りのホームルームが終わり、銘々が席を立っていく。
八幡(そろそろいくか)
バッグを持って席を立つ。
今日はやけに視線を感じた。まぁ原因は自分でも分かっているけど。さすがにノリノリで鼻唄うたってたときの視線はやばかった。
なにがやばいってあの戸塚が話しかけるのを止めちゃうレベルでやばかった。
ちょーヤバス。いや、まじで泣きそう。
とりあえず意味もなく口を3の字にしながら教室を出る。
八幡「ここらへんでいっか」
そうひとり呟くと、廊下の曲がり角のあたりで壁に寄りかかる。
八幡「待つこと10分、ターゲットが姿を現した」
結衣「不審者みたいに言うなし。ってか、そんな待ってないでしょ」
八幡「まぁな」
軽く二の腕を突っつかれる。どうやら由比ヶ浜も比企谷家のノリに慣れてきたらしい。
帰りのホームルームが終わり、銘々が席を立っていく。
八幡(そろそろいくか)
バッグを持って席を立つ。
今日はやけに視線を感じた。まぁ原因は自分でも分かっているけど。さすがにノリノリで鼻唄うたってたときの視線はやばかった。
なにがやばいってあの戸塚が話しかけるのを止めちゃうレベルでやばかった。
ちょーヤバス。いや、まじで泣きそう。
とりあえず意味もなく口を3の字にしながら教室を出る。
八幡「ここらへんでいっか」
そうひとり呟くと、廊下の曲がり角のあたりで壁に寄りかかる。
八幡「待つこと10分、ターゲットが姿を現した」
結衣「不審者みたいに言うなし。ってか、そんな待ってないでしょ」
八幡「まぁな」
軽く二の腕を突っつかれる。どうやら由比ヶ浜も比企谷家のノリに慣れてきたらしい。
60: ◆7chPYS4ayA 2016/05/28(土) 21:24:00.62 ID:TTgq7ohr0
結衣「じゃあ行こっか。今日はヒッキーに聞きたいことがたくさんあるから、覚悟してね?」
八幡「いや、覚悟とか間に合ってるんでそういうのはちょっと……」
結衣「じつは、偶然にも大岡くんがヒッキーのフォーチュンクッキーを録音してたんだよねー」
八幡「くっ、金ならないぞ!」
結衣「お金じゃないし! 今日は正直に話してくれるよね?」
八幡「……まぁ、隠そうとも思ってなかったからな」
結衣「よしよし」
由比ヶ浜が満面の笑みを浮かべる。そして俺たちはそのまま歩みだした。
ちなみにさっきうやむやになったけど、録音って冗談だよね? 何気にちょー恥ずかしいんだけど。
61: ◆7chPYS4ayA 2016/05/28(土) 21:24:39.71 ID:TTgq7ohr0
そんな俺の心配などどこ吹く風とばかりに、彼女は上機嫌に階段をのぼっていく。そして部室まで歩いていき、その扉を開けた。
結衣「やっはろー」
八幡「うす」
雪乃「やっ……こんにちは、二人とも」
八幡「ぷっ、お前いま――」
雪乃「こ ん に ち は、比企谷くん」
八幡「う、うす」
ちょっとした軽口なのに、びっくりするほどの冷凍ビームを撃ってきますね。
結衣「さぁヒッキー座って座って。さっそく話してもらうよー。あ、紅茶入れてあげ――」
「「けっこうです」」
結衣「なんで息ピッタリなんだし……」
落ち込んでいる由比ヶ浜を席に促し、自分も席に座る。そしてすぐに雪ノ下が立ち上がり、三人分の紅茶を入れた。
62: ◆7chPYS4ayA 2016/05/28(土) 21:28:31.34 ID:TTgq7ohr0
雪乃「さて、比企谷くん。洗いざらい話してもらいましょうか」
紅茶と茶菓子とボイスレコーダーが机に置かれ、雪ノ下にさぁと促される。あれ? 会話って録音しながらするものだっけ?
とりあえずボイスレコーダーはしまってもらうと、、俺はひとつ咳払いをしてから話した。
八幡「あ、あー実はな、好きな人ができたんだ」
結衣「や、やっぱり……」
こういう話は小町としかしたことないから、いざ話すとなるとめっぽう恥ずかしい。
それなら話さなきゃいいじゃんと言われそうだが、まぁ、隠し事してまた変にぎくしゃくするのもあれだしな。
雪乃「そ、そう。それで、その、好きな人の名前は?」
八幡「名前はゆ――」
「「!?」」
そういえば結局、名前はわかんねぇんだよな。まぁ適当なこと言うのもあれだし、ごまかしとこ。さっきの発言? なんのことでせう?
八幡「わり、知らない」
雪乃「ちょっと待ちなさい。いま明らかに言いかけたでしょう。ゆの次を早く教えなさい」
結衣「そうだよ! ゆの次はア行? カ行? 大穴でマ行だったら訴えるよ!」
八幡「なんで訴訟案件になってんだよ……。いや、ほんとうに知らねぇんだよ」
63: ◆7chPYS4ayA 2016/05/28(土) 21:29:59.65 ID:TTgq7ohr0
前のめりになる二人をどうどう、とおさえる。
……いや、あれですね。こうして前のめりになると二人の違いがよく分かりますね。いや、ナニとは言わないけど。
結衣「……ヒッキーどこ見てんの」サッ
雪乃「……比企谷くん? 今日の東京湾がどれくらい寒いか、興味ない? ぜひ体験させてあげるわ」
八幡「いやいやちょっと待て! せめて鹿島湾がいい」
結衣「沈められることは否定しないんだ……」
由比ヶ浜が呆れたようにつぶやく。
いや、雪ノ下に正面切って反論しても勝てないだろ。こういうときは適当なところで妥協するのが吉だ。
今回もけっこう良い線で落とせたしな。死ぬのは確定したけど。
64: ◆7chPYS4ayA 2016/05/28(土) 21:30:54.34 ID:TTgq7ohr0
俺は目線を横に逸らし、雪ノ下の冷気から逃げるために話題を変える。
八幡「あ、でも苗字なら知ってるぞ」
結衣「苗字なら言えるんだ?」
雪乃「名前は言えないのに苗字は言えるなんて、ほんと不思議なメンタルしてるわね」
八幡「いや、名前は本当に知らねぇんだよ」
結衣「そ、それで苗字は?」
八幡「比企谷」
結衣「……1、1、0、と」
雪乃「……シスコンだシスコンだとは思っていたけれど、どうやら最後の一線を越えてしまったようね。次は法廷で会いましょう」
八幡「いやいや待て待て! 小町じゃないぞ! いや、たまに小町で良いんじゃないかと考えちゃうけど断じて違う!」
結衣「うわぁ……言い訳すらグレーゾーンぎりぎりだ……」
雪乃「いえ、これはアウトよ、由比ヶ浜さん」
二人がガタガタッと椅子ごと俺から遠ざった。だいぶドン引きされたらしい。まぁ今さら誤差の範囲だけどな。ふだんの距離からして光年単位で離れてるし。
あと由比ヶ浜さん、ケータイから親指を放してくれませんかね。うっかり通話ボタンを押されると、俺の息の根が社会的に止まルンです。
65: ◆7chPYS4ayA 2016/05/28(土) 21:31:54.69 ID:TTgq7ohr0
八幡「いや、ほんとうにその子が言ってたんだよ。比企谷って」
雪乃「とぼけるのもたいがいにしなさい。どこの世界に好き好んで比企谷くんと同じ苗字を名乗る女子がいるの!」
八幡「おい、待て! 比企谷って名乗ることはそんな不思議じゃないだろ。でないと俺の主夫への道が絶たれる!」
結衣「ヒッキー、最後もう反論じゃなくて願望になってるよ」
……おっと、少し我を忘れていたようだ。
とりあえずこのままでは埒が明かないので、意中の子との出会いから話すことにした。
雪乃「……そう。ほんとうに名前も知らないのね」
八幡「ああ。結局名前は教えてくれなかったな。比企谷も本当かどうか分からんし」
雪乃「まぁ、比企谷くんならフェイスブックあたりを監視するのはデフォでしょうし、本名を教えないのは賢明ね」
結衣「え、ヒッキーまじ……?」
八幡「まじじゃねぇよ。アカウントすら作ったことねぇわ」
66: ◆7chPYS4ayA 2016/05/28(土) 21:33:21.87 ID:TTgq7ohr0
結衣「でも、ヒッキーが恋かぁ……」
八幡「……なんだよ」
結衣「いや、意外というか。そういうの避けてる感じがしたし」
八幡「まぁ失敗した数と言いふらされた数なら並みの学生を寄せつけないからな」
雪乃「近寄りたくないわね、その記録」
八幡「やめて、知ってるから」
おいおい、封印されし黒歴史が召喚されちまうじゃないか。夜な夜な怒りの業火でメンタル焼かれる俺の身にもなれよ。 ……自業自得ですね、はい。
八幡「あのころの俺は表面的に恋愛を勘違いしていた。だが今は違う! 俺は真実の愛に目覚めたのだ」
結衣「なんだろう、ヒッキーが真実の愛と言うとすごく胡散臭い……」
雪乃「同感だわ」
67: ◆7chPYS4ayA 2016/05/28(土) 21:35:10.39 ID:TTgq7ohr0
八幡「彼女を看病した時に自分でも驚くほど母性というか父性本能が働いたんだ。こんなにも守ってあげたいと思ったのは小町と戸塚以来だから、これぞ真実の愛に違いない」
雪乃「審査基準が妹さんと男の時点で信頼性がゼロなのだけれど」
八幡「ばっか。今までは法律とか性別の壁が俺のゆく道を阻んでたけど、今回は合法だぞ、合法」
雪乃「恋愛で合法と連呼すること自体が、まずおかしいでしょう……」
雪ノ下が頭をかかえて首を振る。
結衣「ヒッキー、今回は本気なの……?」
八幡「ああ。俺を助けてくれたり、この目を恐れずに受け入れてくれたりとか、あんだけ俺に好意を示してくれる子なんかいなかったからな」
結衣「……」ムカッ
結衣「あ、あたしたちだってヒッキーの目とか受け入れてるし、優しくしてんじゃん。あたしたちにも愛とか感じないの?」
雪乃「由比ヶ浜さん、語弊があるわ。受け入れたんじゃなくて慣れただけよ」
八幡「とまぁこんな感じでプラスになってもマイナスに振り切っていくから、プラマイでマイだな」
結衣「ゆ、ゆきのーん……」
由比ヶ浜が子犬のように雪ノ下へしなだれかかる。あいかわらず、この隙あらばゆりゆりする感じ、たまらんとです。
68: ◆7chPYS4ayA 2016/05/28(土) 21:37:30.15 ID:TTgq7ohr0
いつのまにか二人のガールズトークが始まったので、賢明な俺はステルスヒッキーとなって読書タイムに入る。
ちなみに、トークの話題は今週末にある生徒会主催のパーティのようだ。これはあのあざとい会長の発案ではなく、前々から行われているらしい。
らしいというのは、俺は昨年のパーティに出ていないので推測にすぎないからだ。どうもこのパーティではダンスもするらしく、そのお相手を男子は選んで行かなければならない。
そんなリア充御用達のイベントなど、超高校級ぼっちの俺が行くはずもない。
まったく、二人ほど声をかけたあたりで欠席を決断してやったわ。あれ、せっかく忘れていたのに涙が……。
ちなみにそのパーティは駅近くの会場を借りるから、人によっては他校の生徒を誘うこともあるらしい。
はっ!? つまりあの子も誘える!? やばっ、おれ天才! 連絡先知らねー!
69: ◆7chPYS4ayA 2016/05/28(土) 21:40:04.59 ID:TTgq7ohr0
一縷の希望が打ち砕かれ、絶望から逃げるために文字列を追っていると、部室の入り口からわずかな物音がした。
なんとなしに目をやると、誰かがのぞいているようだった。
娘「……」チラッ
八幡「あっ!」ガタッ
思わず、椅子を倒す勢いで立ち上がった。入り口から覗いていた人物は忘れもしないあの人。しかし、彼女は俺と目が合うや、逃げていってしまった。
結衣「ど、どうしたの!? ヒッキー」
八幡「いま話してた女の子だ! 俺は帰る! じゃあな!」
雪乃「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
二人の制止の声も聞かずに走り出す。住所も名前も分からないから、ここを逃したらまずい。下手したらこれが最後かもしれない。
なんとなしに目をやると、誰かがのぞいているようだった。
娘「……」チラッ
八幡「あっ!」ガタッ
思わず、椅子を倒す勢いで立ち上がった。入り口から覗いていた人物は忘れもしないあの人。しかし、彼女は俺と目が合うや、逃げていってしまった。
結衣「ど、どうしたの!? ヒッキー」
八幡「いま話してた女の子だ! 俺は帰る! じゃあな!」
雪乃「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
二人の制止の声も聞かずに走り出す。住所も名前も分からないから、ここを逃したらまずい。下手したらこれが最後かもしれない。
70: ◆7chPYS4ayA 2016/05/28(土) 21:43:51.14 ID:TTgq7ohr0
俺が扉に手をかけようとしたとき、勢いよく扉が開かれた。
いろは「せんぱーい。大変なんですよー」ガラガラッ
八幡「げっ」
いろは「あ、なんですかその反応」
八幡「いやちょっとあれがこうでああでそんなわけで、じゃ」シュタッ
いろは「えっ、ちょっと。何一つ内容が入ってこないんですけど」
突然入ってきた後輩に有無を言わせずにお断り文句を入れる。
そのまま俺は部室を飛び出し、あの子を追いかけた。背後から俺を呼ぶ声がするが無視だ無視。
しかし、なぜあの子は校内にいるのだろう。この学校の学生だったのか。それとも俺を探してここまで――。
いや、その線はまた変な勘違いをしそうだから止めておこう。
駆けだした俺の脚は早くも重くなる。さすがにマラソン大会の翌日だと満足に走れない。何気に昨日は頑張ってしまった。くそっ、こうなるなら少しは温存しておけばよかった。
もつれそうな足に喝を入れ、俺は彼女に迫った。
いろは「せんぱーい。大変なんですよー」ガラガラッ
八幡「げっ」
いろは「あ、なんですかその反応」
八幡「いやちょっとあれがこうでああでそんなわけで、じゃ」シュタッ
いろは「えっ、ちょっと。何一つ内容が入ってこないんですけど」
突然入ってきた後輩に有無を言わせずにお断り文句を入れる。
そのまま俺は部室を飛び出し、あの子を追いかけた。背後から俺を呼ぶ声がするが無視だ無視。
しかし、なぜあの子は校内にいるのだろう。この学校の学生だったのか。それとも俺を探してここまで――。
いや、その線はまた変な勘違いをしそうだから止めておこう。
駆けだした俺の脚は早くも重くなる。さすがにマラソン大会の翌日だと満足に走れない。何気に昨日は頑張ってしまった。くそっ、こうなるなら少しは温存しておけばよかった。
もつれそうな足に喝を入れ、俺は彼女に迫った。
71: ◆7chPYS4ayA 2016/05/28(土) 21:45:08.30 ID:TTgq7ohr0
――
結衣「……ゆきのんは冷静だね」
雪乃「比企谷くんですもの。おそらく数日もすれば、新たなトラウマを作って帰ってくるわ」
結衣「だよねー。そしたらお疲れさま会してあげようよ。ヒッキーがあんなにも積極的になったのはいい成長だし」
雪乃「ふふ、それもそうね」
結衣「……ゆきのんは冷静だね」
雪乃「比企谷くんですもの。おそらく数日もすれば、新たなトラウマを作って帰ってくるわ」
結衣「だよねー。そしたらお疲れさま会してあげようよ。ヒッキーがあんなにも積極的になったのはいい成長だし」
雪乃「ふふ、それもそうね」
72: ◆7chPYS4ayA 2016/05/28(土) 21:46:36.18 ID:TTgq7ohr0
――夕方 昇降口
結衣「……あれ? あそこでうなだれてるのってヒッキーじゃない?」
雪乃「あら、ほんとうね」
八幡「……終わった」
結衣「え、終わったってもしかして、もう告白したの!?」
八幡「いや、話す話題がなかったからあのパーティの話をしたら、もう行く人がいるって言われて断られた……。死にたい」
結衣「はっや! 出会って二日で振られたの!?」
雪乃「総武高最速タイムね、間違いなく」
八幡「なんとでも言えよちくしょー……。あーリア充爆発しねぇかなぁ。もう俺が爆発しようかなぁ。プルトニウムってどこに売ってんだろ」
結衣「お、落ち着いてヒッキー!」
結衣「……あれ? あそこでうなだれてるのってヒッキーじゃない?」
雪乃「あら、ほんとうね」
八幡「……終わった」
結衣「え、終わったってもしかして、もう告白したの!?」
八幡「いや、話す話題がなかったからあのパーティの話をしたら、もう行く人がいるって言われて断られた……。死にたい」
結衣「はっや! 出会って二日で振られたの!?」
雪乃「総武高最速タイムね、間違いなく」
八幡「なんとでも言えよちくしょー……。あーリア充爆発しねぇかなぁ。もう俺が爆発しようかなぁ。プルトニウムってどこに売ってんだろ」
結衣「お、落ち着いてヒッキー!」
73: ◆7chPYS4ayA 2016/05/28(土) 21:47:46.10 ID:TTgq7ohr0
結衣「そ、その、なんなら代わりにあたしがパーティに行ってあげても――」
八幡「やだ」
結衣「え、即答!?」
八幡「だって、あの子が彼氏とダンスしてんだぜ。弱り目に祟り目どころか目が腐るまである」
雪乃「それは元からでしょう……」
八幡「とりあえず行かん。もう帰って小町にヨシヨシしてもらう」
結衣「この状況でもシスコン発揮するんだ……」
雪乃「筋金入りね……」
74: ◆7chPYS4ayA 2016/05/28(土) 21:49:15.24 ID:TTgq7ohr0
本日の投下は以上になります。
話があまり進まなくてすみません。
また来週の土日あたりに投下したいと思います。
話があまり進まなくてすみません。
また来週の土日あたりに投下したいと思います。
75: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/28(土) 21:59:13.16 ID:VpE8fXa1O
乙
面白い!
面白い!
76: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/28(土) 23:26:01.48 ID:H+fJQ/S7o
乙です
77: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/29(日) 00:55:10.85 ID:Elljz7t7O
おつ
81: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/30(月) 20:00:43.34 ID:A9ZO9Vfho
ええやん
84: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/31(火) 23:50:10.61 ID:KA92HUroo
ドク役が来てないからどうなんのかね
娘未来に帰れない予感するねww
娘未来に帰れない予感するねww
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八幡「バック・トゥ・ザ・フューチャー?」 後編