b74d0517[1]


右京「346プロダクション?」


90: ◆GWARj2QOL2 2016/03/20(日) 19:32:58.04 ID:GmyKmbexO
「あの!と、ととと突然呼び出してす、すま…、ごめん!」

「ええんどすえ。ウチもこれから暇やったから…」

「あ、そ、そうなんだ!…えっと…」

「どうされたんどすか?」

「えっと…んー…」

「…」

「…ああああ…ど、どうしよう…」

「どないしました?はっきりしておくんなはれ」

「え、は、はい…えっと…」

「…」

「こ、これ!…これ!受け取ってください!」

「…これは?」

「あ、あの!か、帰ってからでも良いので!よ、読んでいただければ…」

「…」ポイ

「えっ…」

「…そのやり方、気に入りまへんなあ」

「あ、え…」

「男やったら、どっしり構えとくんなはれ。帰ったら読めだとか…いいえ。むしろ手紙自体ウチの好みじゃありまへん」

「…」

「そんな女々しい態度、ウチは気に入りまへんなあ」

「…ン゛ン゛!…わ、分かった!それなら、俺も覚悟き、決めるわ!」

「どうぞ」

「……お、俺…」

「…」

「俺、不器用で、こういう経験も少なくて…」

「…」

「そんなに頭も良くない。運動神経がええわけでもないし、イケメンでもない…」

「…」

「それでも、俺、紗枝ちゃんと…つ、付き合い思うとる…」


「ここ、覚えとるか?は、初めて俺が紗枝ちゃんと会うた場所や…」


「こ、こんな俺で良かったら!付き合うてくれへ…ん………か……」


「…あれ?紗枝ちゃん…?」

91: ◆GWARj2QOL2 2016/03/20(日) 19:33:49.37 ID:GmyKmbexO
友紀「zzz…」

『えー、間もなくー、京都ー。京都でござい…ます』

友紀「zzz…」

右京「…」ペラ

『出入り口はー、右側ー。右側…です』

右京「おや、着いたようですねぇ。それでは、行きましょう」

友紀「zzz…」

右京「姫川君」

友紀「…紅茶が…紅茶が服にかかる…」

右京「姫川君」

友紀「!う、ヴぇ!?」

右京「おやおや。先程までの緊張はどうしたんでしょうねぇ」

友紀「え……えっと…あ、着いた?」

右京「ええ。もうすぐ止まります」

友紀「…あー…また来た…緊張が…」

右京「おやおや…。随分と気持ち良く寝ていたようですから、随分な鉄の心臓を持ってらっしゃると思ったのですがねぇ」

友紀「だって…朝の5時おきだよ?緊張してても睡魔には勝てないよぉ」

右京「夜更かしは体にも肌にも良くありませんよ。君はもっと規則正しい生活を心掛けるべきです」

友紀「でも…流石に本番3日後とか言われても困るよぉ。こういうのってほら、もっと入念な練習とかさ…」

右京「仕方ありません。本日出演される方が怪我をしてしまったらしいですからねぇ」

友紀「ピンチヒッターってこと?」

右京「ええ。それでも掴んだチャンスです。モノにしない手はない…」

『京都ー。京都で、ござい…ます』プシュー

右京「さて行きますよ。愚痴は歩きながらでも吐けます」

友紀「ふぁぁ…い」

右京「あ、それともう一つ」

友紀「何ー?」

右京「君、顔を洗った方がよろしいですよ?」

友紀「え?…あ、涎出てた…」

92: ◆GWARj2QOL2 2016/03/20(日) 19:34:49.58 ID:GmyKmbexO
右京「しかし君、随分荷物が多いようですねぇ」

友紀「だってほら、やっぱりテレビ越しでも応援したいもん」

右京「ああ、キャッツの応援グッズですね?」

友紀「うん!今日は張り切って応援するつもり!」

右京「そうですねぇ…そうなれば僕も助かるのですがねぇ…」

友紀「?」

右京「君がこの仕事を難なくこなせる方なら、それも出来るでしょう」

友紀「え?」

右京「予想集客数は最高1000人と大きなイベントに比べればさほどながらも、君はその人数の前でイベントを進めなければならないのですよ?」

友紀「え…それってまさか…野球観れないってこと…?」

右京「ですから、君次第です」

友紀「無理って顔してるじゃーん!!」

右京「欲望に身を任せ仕事を捨てるか、多少の欲は我慢し、仕事を全うして次に繋げるか」

友紀「ぅ…」

右京「納得いきませんか?」

友紀「納得はしてるよ…でもついてないなぁって…」

右京「でしたらこう考えてみてはどうでしょう」

友紀「?」

右京「君が仕事を頑張り続けたかいあって、やがてキャッツから何らかの形でオファーが来る…」

友紀「…そっか…」

右京「それもまず今回の仕事をやり遂げてからですがねぇ?」

友紀「う…ヤバい…お腹痛くなってきた…」

右京「…無理もありませんかねぇ」

友紀「…もし右京さんならこんな時どうするの?」

右京「そうですねぇ…」

友紀「…でも右京さんって、こういう時でも平然としてそうなんだよねぇ…」

右京「僕も人の子ですよ。人並みに緊張はします」

友紀「絶対嘘だー!右京さんこそ鉄の心臓だよー!」

右京「おやおや…」

93: ◆GWARj2QOL2 2016/03/20(日) 19:35:36.09 ID:GmyKmbexO
本当にびっくりした。

先週の着ぐるみ仕事の後、アタシは何かの間違いかと思って右京さんに再度、いや何度も聞き直した。

けど、やっぱり日にちは来週。

それは決定。

何でも当日の主役が骨折しちゃったとかでイベントには出れなくなり、急遽空きのタレントを探していたそう。

そこにたまたま右京さんが頼み込み、早苗さんの発破のおかげもあってアタシが滑り込めた、という事。

…だけど。

「あまりにも急じゃないかなあ…はむっ」

「そうですねぇ…少し、僕も急ぎ過ぎたかもしれません」チュー

今の時刻は朝の9時前。

かなり都会の京都といえど、流石にこの時間に開いている定食屋などあるわけもなく、仕方なくアタシ達は早朝からやっているファーストフード店で朝用のメニューを注文した。

「マフィンってやっぱ手につくね…」ペロ

「君が頼んだんですよぉ…」

ふと、思う。

「ねえ右京さん」

「何でしょうか?」

「…右京さんって、コーヒー飲むんだね」

「頼まざるを得ない状況になりましたからねぇ」

「ご、ごめんって…お腹空いてたから…」

でも、コーヒー飲んでる姿とか似合いそうだなあ…。

…相変わらず事務所では紅茶をバチャバチャやってるけどね…。

94: ◆GWARj2QOL2 2016/03/20(日) 19:37:03.65 ID:GmyKmbexO
友紀「それで…今日からみっちりやるってこと?」

右京「ええ。僕はそのつもりです」

友紀「…うぇぇ…」

右京「どうかされましたか?」

友紀「だってぇ…久し振りの京都だよぉ?小学校以来だよぉ…?ゆっくりもしてみたかったり…」

右京「まず、僕らがここに何をしに来たのか。それを君は考えるべきですね」

友紀「分かってるよー…」

右京「僕らのような身分の人間は、交通費、宿泊費を出してもらえただけでもありがたいと思わなければなりません」

友紀「…米沢さんに頼み込んだんだって?」

右京「流石にぶっつけ本番というわけにはいきませんからねぇ」

友紀「…交遊費なんてものは…?」

右京「君のお小遣いから捻出していただければ幸いです。最も、その時間があるなら、ですが…」

友紀「…時間無い?」

右京「ええ。本来こうして座っている時間すら惜しいというものです。食べる事は歩きながらでも出来ますからねぇ」

友紀「アタシも右京さんみたいに見たもの聞いたもの全部覚えられる頭があればなー…」

右京「そんなものを言い訳にしていれば、いずれ困るのは君ですよ」

友紀「ぁーぃ…」

右京「とはいえ朝ぐっすりと寝てしまったせいで活動が遅れている脳には丁度良い栄養分が補給出来たかもしれません」

友紀「…ん!まあね!じゃあ…行く?」グググ…

右京「ええ。そうするとしましょう」

友紀「…あのさ」

右京「何でしょう?」

友紀「駅で何か買う分にはアリ?」

右京「帰りに買うのでしたら結構です。僕も、そうするつもりですからねぇ」

友紀「え!?右京さんお土産買う人いるの!?…あ、ご、ごめん…」

右京「お気になさらず。しかしこれがいるんですよ…」

友紀「…米沢さんだよね?」

右京「ええ。米沢さんも…」

友紀「…「も」…?」

右京「ええ。とはいえ僕も彼には色んな借りがありますからねぇ。昔も、今も…」

友紀「へー…付き合い長いんだ」

右京「そのようですねぇ」

友紀「えー…完璧他人事じゃん…」

95: ◆GWARj2QOL2 2016/03/20(日) 19:38:10.12 ID:GmyKmbexO
友紀「狭い道だねぇ」

右京「そうですねぇ」

友紀「あ、見て見て。向こうのゲーセン凄い人混み。子供達がたくさん…」

右京「春休みですかねぇ。この快晴に最近穏やかになってきた気候。外に出たくなるのも分かります」

友紀「アタシも外好きだよ。球場はもっと…」チラッ

右京「君もしつこいですねぇ」

友紀「分かってるよ!いつか来るキャッツの為に!」

右京「ええ、その意気です。ですがあまり愚痴が多いとスタッフに聞かれてしまうかもしれませんねぇ」

友紀「うぐっ…わ、分かってるって…」

右京「おや、どうやら心当たりがあるようですねぇ。ならばそれは改めるべきでしょう」

友紀「…右京さんって絶対腹黒だよね…」

右京「そのようなことも言われたことがありますねぇ」

友紀「だってさ、まず逃げ道無くしてから言ってくるでしょ?ちょっとは油断させてよ」

右京「僕はごく普通の事を言っているだけなんですがねぇ…おや」ドン

「…きゃっ」

友紀「あ…ご、ごめん!大丈夫?もー…右京さん!前見て歩きなよー…」

右京「おやこれは僕としたことが…申し訳ありません。大丈夫ですか?」

「…え、ええ。大丈夫どすえ」

右京「お怪我はされていませんか?」

「ええ。気にせんといて下さい。ウチも前見んと走ってしもたんどす」

右京「そうでしたか…」

「…お二方は、ご旅行どすか?」

友紀「えっ!?ち、違うよー!仕事だよー!」

右京「ええ。彼女はまだ新人とはいえ、アイドルなんですよ」

「それはそれは…ウチてっきり親子かと思てしまいましたわ」

友紀「親ッッ…!?子ッ……!!?」

右京「おやおや。確かにそれくらい歳が離れてはいますがねぇ」

友紀「こ、この人はアタシのプロデューサー!アタシはアイドル!!」

「そないに怒らんといておくれやす。軽いてんごどすえ」

友紀「て、てんご?」

右京「京都弁で、冗談。ですね」

「ふふ。よく知っとりますなあ。お二方、東京の方どすか?」

友紀「ん、うん…」

「それはそれは…京都はええ所どすえ。どうか楽しんで下さい」

右京「ええ。お心遣い、感謝します」

「ほなウチはこれで…」

右京「ええ。それでは…」

友紀「じゃーねー」

96: ◆GWARj2QOL2 2016/03/20(日) 19:39:10.00 ID:GmyKmbexO
友紀「えーっと…ホテルはこの道を真っ直ぐ…2つ目の信号を左…」

右京「3つ目ですよ。覚えていないなら常に僕が用意したプログラムを手に持っておくべきです」

友紀「うー…昨日ちょっとDVD観てたから…」

右京「DVDを観る前にでも暗記出来たはずですがねぇ。道のりくらいは」

友紀「…あー言えばこー言う…」ボソッ

右京「何かおっしゃいましたか?」

友紀「な、何でもない!」

右京「そうですか」

友紀「…あ。ねえ右京さん?」

右京「どうかされましたか?」

友紀「ん…あのさ、さっきの子、めちゃくちゃ可愛くなかった?」

右京「そうですねぇ。確かに、とても綺麗な顔立ちをしていらっしゃいました」

友紀「だよね!それにおっとりしててさー…」

右京「それが、どうかしましたか?」

友紀「ん?いや…ほら、スカウトとか…」

右京「そうですねぇ…」

友紀「あ、この間みたいに気づかれないように名刺を仕込んだとか?」

右京「僕は何の理由も無しにそんな事はしませんよ?」

友紀「?…じゃあ、スカウトしないの?」

右京「そうですねぇ…今のところは、考えていません」

友紀「え!?もったいないなー…」

右京「僕が君をスカウトした時、何と言ったか覚えていますか?」

友紀「?…んー………」

右京「君、すぐに忘れますねぇ…」

友紀「てへへ…ごめんごめん」

右京「顔が良いだけならば、僕はスカウトはしません」

友紀「?」

97: ◆GWARj2QOL2 2016/03/20(日) 19:42:08.48 ID:GmyKmbexO
右京「…僕の勘が正しければ、彼女は恐らく何らかの意思を持って僕にぶつかってきました」

友紀「…え?…わざとってこと?」

右京「ええ。ですから避けるにも避けられなかったんですよ。この狭い路地ですから。それに凶器のような物も持っていなかったようですし…」

友紀「考えすぎだよ…。それにわざとだとしたら何でそんなこと…」

右京「理由は分かりませんが、彼女は恐らく君が思っている人間とは大幅に違う方だと思いますよ?」

友紀「えー…?何かぶつかられたからって根に持ってない?」

右京「おやおや…」

友紀「考えすぎだって。あるわけないじゃん」

右京「ええ。普通はそうでしょう。ですが見て下さい。この狭い路地を」

友紀「狭いけど…何?」

右京「ええ、狭いというのに、路地にまで出ている店の看板や石像。果ては回収されていないゴミ袋の山。前を見ずに歩いていれば僕にぶつかる前に何度ぶつかる羽目になるのでしょう?ええ、あのような角のある物にぶつかればタダでは済まないと思いますよ?」

友紀「あー…確かに人にぶつかるよりも危ないね」

右京「ですが彼女はこう言いました。「前を見ていなかった」と…」

友紀「確かに、怪我してた様子もなかったけど…でもほら、携帯いじってたとか…あ、だったら携帯落とすよね」

右京「ええ。そう思います」

友紀「ん…んー…」

右京「そして何故かは分かりませんし、名刺を仕込んだりもしていませんが、逆はあるようですよ?」

友紀「ん?あれ?…それ、ハンカチ?」

右京「ええ。そのようですねぇ」

友紀「さっきの子?」

右京「ええ。まるで気づいてくれと言わんばかりに僕の足元に落ちていました」

友紀「ふーん…何で?」

右京「何ででしょうねぇ…」

友紀「んー…でもほら、それに関しては本当に落としたとか…」

右京「彼女の服装、何でしたか?」

友紀「え?…普通に、ズボンと…長袖の…」

右京「そうですねぇ。しかし彼女の上着にはポケットが無かった。だとしたらハンカチが入っているのはズボン。それに身体にフィットするようなものです。そのフィットしたズボンのポケットからハンカチがそんな簡単に落ちますかねぇ?」

友紀「細かいなぁ…」

右京「ええ。細かい所がいちいち気になってしまう。僕の、悪い癖…」

友紀「まあいいじゃん。会ったら会ったで返せばいいし、会わないなら会わないで交番にでも届ければいいし…」

右京「そうしますかねぇ」

友紀「…ん、何かそれ良い香り…」

右京「お香を焚いてあるのでしょうねぇ」

友紀「ふーん…それに結構高そう…」

右京「ならば尚更、返さないわけにはいきませんねぇ」

友紀「そりゃあねぇ…そんな綺麗に使ってる物…あれ?」

右京「ええ。そうなんですよ」

友紀「…そういえば、引き返してこないね」

右京「ええ。それほど大事に使っているのであれば失くしたことにすぐに気がつくはず…」

友紀「…」

右京「…」

友紀「…ま、考えるのやめよ?」

右京「そうしましょう」

98: ◆GWARj2QOL2 2016/03/20(日) 19:45:12.41 ID:GmyKmbexO
…ああ。

この感じ、ほんまに久しぶりやわぁ…。
歩き方、話し方、接し方、立ち振る舞い全て…。

あれこそ、ウチが求めていた男…。

…ああ、アカン…。

これは、ほんまにアカンわぁ。

『お、俺…』

あないないちびったモンとは違う。

年齢…そんなものどうでもええ。
ウチは、ウチの好きなモンがええ。

ああ、まさか友達との遊びの行きしにこないな出逢いがあるとは…。

「駅から後を追って正解やったわぁ…」

…普通、親子があないな格好で旅行に来るわけがない。

…アンタらの関係がどんなもんかなんて、どうでもええ。

ウチは、欲しいモンはとにかく手に入れたい主義なんどす。

その為なら、思い入れのあるもんなんて捨て駒にしてもええ。

「…」カチッ

『こちらが今日泊まるホテルですねぇ…』

『あ、ここ?…あ、ちゃんと別々の部屋だよね?』

『君、そこも覚えてないんですか?』

『え?あ…待って…あ、うん。別々…』

『…』フゥー

『あ、ちょ!右京さん!失望しないで!こっから!こっから巻き返すから!』

『ちなみに君、何時に何処に行くかは覚えてますか?』

『そ、それくらい覚えてるよ!○時に○○の○○…ってもう無いじゃん!!』

『ええ。急ぎましょう』

…。

「…フフッ…」

あのお方、右京はん言うんやなあ。

ああ、右京…。

ええ名前やわぁ…。

しかし、右京はんは無理でも。

…。

『ほなウチはこれで…』ポイ

『ええ。それでは…』

『じゃーねー』ポスッ

…。

…あのキャップ被ったとぼけた方やったら、分からんやろなぁ。

…鞄の中に、盗聴器放り込まれたなんて…。

99: ◆GWARj2QOL2 2016/03/20(日) 19:45:53.50 ID:GmyKmbexO
友紀「あー!つ、着いたー!」

右京「ええ…。本来なら…ここまで息を荒くすることはないんですがねぇ」

友紀「…お腹空いてたんだもん…」

右京「君は睡魔にも空腹にも、滅法弱いようですねぇ」

友紀「しょうがないでしょー。人間の三大欲求!食べる!眠る!………あっ…」

右京「…」

友紀「…」

右京「さ、行きますよ」

友紀「…ぁぃ」

100: ◆GWARj2QOL2 2016/03/20(日) 19:46:48.34 ID:GmyKmbexO
右京「お待たせしました」

「あー!待ってたよー!いやー…本当に申し訳ないね!」

右京「いえ。むしろこのような素晴らしい仕事を下さったことに感謝しなければなりません」

「大袈裟だよー!まあ、ある程度はさ、台本あるから。それと僕らも全力でフォローするからさ!」

友紀「み、346プロダクション所属、姫川友紀です!よ、よろしくお願いします!」

「ん!よろしく頼むよ!…まー…ここだけの話さ、杉下プロデューサーには話したけど…」

友紀「あ、その…休んじゃったって…」

「そう!そうなんだよー…。実はその子も新人でさ。何だか可哀想でねぇ」

右京「本来ここにいらっしゃるはずの方がまさか体調不良とは…いやはや、しかも身内である為、いささか複雑な心境でもあるというのが本音です」

「本当だねぇ。でもほら、この間みたいにさ、早苗ちゃんを引っ張るくらいの度量見せちゃおうよ!」

友紀「え?」

「もうね、僕は確信したね。君はいつか大物になるって!」

友紀「ほ、本当ですか?え、えへへ…」

「だから頼むよ!1000人規模なんだからさ!」

友紀「…それ、思い出させないで…」

右京「大丈夫ですよ」

友紀「え?」

右京「人間、追い込まれれば本来の力を発揮出来るものです」

友紀「うわー!ライオンの親みたいなことやってるー!!」

右京「ンフフ」

「大丈夫大丈夫!…って言えないのがね…」

101: ◆GWARj2QOL2 2016/03/20(日) 19:47:58.20 ID:GmyKmbexO
友紀「えー…えっと…ここで、「み、みんなー…待たせてごめんねー…」」

右京「…」

「…」

友紀「「やっぱり学生さんが多いかなー?卒業生はお、お疲れー!在校生はこれからも…頑張ってー…」」

右京「…」カチ

友紀「…ど、どうだったー!?」

右京「『それでは後ろまで聞こえませんよ。もう少し大きな声でお願いします』」キーン

友紀「えー!?」

右京「『僕達が今立っている場所は大体200人くらいの場所です。そこにギリギリ聞こえる程度ですよ』」キーン

友紀「えー…」

右京「『何の為にピンマイクが着いていると思っているんですか。いつもの君のテンションでいけば出来ることですよ』」キーン

友紀「い、いつものって…そんなさあやりましょうじゃ出せないよー!」

右京「『恥ずかしさを捨てて下さい。それだけです』」キーン

友紀「う…だって聞いてるの右京さん達しかいないし、道行く人たちがこっち見てるんだよー!?」

右京「『本番はこんなものでは済みませんよ』」キーン

友紀「う…」

右京「…」

「…本来ならこんな練習しないんだけどねぇ。彼女の場合は、何もかもが初めてだから…」

右京「ええ。その上本番はもうすぐそこ。これ以外に良い場慣れのさせ方が思い浮かびません」

「…昨日今日デビューしたての子じゃ公衆の面前で大声出してっていうのは難しいよねぇ」

右京「正しくは2週間と3日です」

「でも、こういったことは初めてでしょ?」

右京「ええ。しかし彼女は元野球部のマネージャーであり、その経験は今でも染み付いています」カチ

「じゃあ、それをこれからどうやって出してくか、だね…」

右京「『声出しが出来るようになるまで次のステップには進めませんよ。頑張って下さい』」キーン

友紀「わ、分かったよぉ…」

102: ◆GWARj2QOL2 2016/03/20(日) 19:48:57.69 ID:GmyKmbexO
ああ…恥ずかしい。

そりゃ、部員応援する時とかは全力でやってたけど…。

あれは、ただそれが楽しかったから、そうしただけ。

…今は、どうだろう?

「…」

『どうかされましたか?』

…アタシ、今これ、楽しんでるのかな…。

「…」

元々、アイドルって仕事にも…あんま興味あったわけじゃないし。

…じゃあ、何でだろ…。

『姫川君』

「あ!ご、ごめん!ボーッとしちゃってて…」

『慣れない事だと思いますが、やっていけば必ず慣れてきます。ですから何度もやりましょう。こういうものの楽しみは、やり続けなければ分かりません』

「え…」

…どうして、アタシの考えてること…。

…そういえば、前にもアタシの顔を見ただけでアイドルになろうか迷ってる事を見抜いてみせたよなぁ。

『やりがいは、やらなければ感じません。ですからまずやれるだけやってみましょう』

右京さんの声がスピーカーを通して聴こえてくる。

アタシを慰めようとしている優しげな声。

その中にはスタッフへのフォローもあるんだろうけど…。

…あ。

そういえば、言ってたなあ、あの人。

限界を感じた時、それは諦めた時。

「…」

なんとなく空を見上げる。

「…」

『…』

今日は、雲一つない晴天。

こういう時、上を見るとなんとなく元気が湧いてくるってみんな言う。

…それが、今は少しだけ分かる気がする。

「…ン゛ン゛!」

一つ咳をして、息を吸い込む。

そして、アタシは。

目の前にいるお客さんに向けて、いつもの声を出した。

「みんなー!!待たせてごめんねー!!」

…今のお客さんは、二人。

右京さんと、スタッフを纏めている人。

「やっぱり学生さんが多いかなー!?卒業生はお疲れー!!在校生はこれからも頑張ってー!!」

103: ◆GWARj2QOL2 2016/03/20(日) 19:49:45.90 ID:GmyKmbexO
正しくはお客さんじゃないけど。

それでも、今アタシの目には二人以外にもお客さんが見える気がする。

勿論アタシの頭の中だけだけど。

そこには、大勢のお客さんがいると思い……というより、いる。

そこには、いるんだ。

「…」

結局、アタシの声はどうだったのか。

「…」

それは、さっきよりももっと奥で拍手している右京さんを見て分かった。

…あれ…なんだろ。

「…」

顔が、とんでもなくにやける。

ただ褒められただけなのに。

あの笑みを見ると、どうしてか顔の筋肉が緩んでしまう。

「…あ」

…そうだ。

分かった。

アタシ…やっと褒めてもらえたんだ…。

104: ◆GWARj2QOL2 2016/03/20(日) 19:50:51.29 ID:GmyKmbexO
右京「とても良かったですよ。君の元気のある話し方に、僕も思わず疲れが吹き飛んだようです」

友紀「お、大袈裟だよ…」

「いやー、良かった!じゃあ次のステップは台本を覚えることだね!」

友紀「あ…こ、この分厚いやつを…」

右京「20ページ程度ですよ」

友紀「そりゃ右京さんはパッと覚えられるだろうけどさぁ…アタシがそんな顔に見える?」

「まー…これも慣れだよねぇ。トラウマになるくらいやれば嫌でも覚えるから」

右京「ああ、それは素晴らしいですねぇ」

友紀「えー…」

「ほんまに、素晴らしいどすなあ…」

右京「…」

友紀「え?」

「え?」

「ほんま、何から何まで…」

右京「…」

「こ、この子誰?友達?」

友紀「え…あ、いや…友達じゃないですけど…朝…会ったよね?」

右京「ええ。会いましたねぇ」

「ええ。そして今回も…」

友紀「な、なんたってこんな所に…」

「あんだけ大きな声でやってたら気になりますわ。こないな民家の少ない場所でも…」

友紀「あー…やっぱり聴こえちゃうよねぇ…」

右京「そうでしたか。それはご迷惑をおかけしました」

「でもちゃんと許可取ったんだよー?…っていうかお嬢ちゃん関係者じゃないんでしょ?」

「ええ。たまたま通りがかっただけどすわぁ」

右京「たまたま、ですか」

「ええ…そうどすぇ。それにちょっと落し物を…」

友紀「落し物?…あ、あのハンカチ?」

「そうなんどす。大事にしてたもんを落としてしまうなんて…」

友紀「ご、ごめーん…あれ、近くの交番に届けちゃって…」

「あらぁ…そうなんどすか?」

友紀「うん。だから…」

右京「忘れ物はハンカチだけでしたか?」

「ええ。…え?」

105: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/20(日) 19:51:14.64 ID:GEbdDaVKo
腹黒対決になりそうな

106: ◆GWARj2QOL2 2016/03/20(日) 19:51:43.74 ID:GmyKmbexO
右京「僕はてっきり、他の忘れ物を取りに来たのかと思いましたが」ゴソゴソ

「え…」

右京「携帯電話。これ、君のですよね?」

「・・・・・・」

友紀「え!?それも落としてたの!?」

右京「ええ。君の鞄の中に」

友紀「え…ちょ!ちょっと!勝手に漁ったのぉ!?」

右京「申し訳ない。どうにも目に入ってしまっていたので、君が荷物を預けた時に少しだけ」

友紀「言ってくれれば出したのに…」

右京「ええ。申し訳ありません」

「・・・・・」

右京「電源は切れているようです。どうぞ?」

「え、ええ…ど、どうもおおきに…」スッ

右京「…」ググッ…

「…え…?」

右京「…「これ」を犯罪として訴えるのはとても難しいですからねぇ…」ボソッ

「…」

右京「それではこれで。姫川君。次は台本を覚えましょう」

友紀「あ、うん…じゃあね!イベントにも来てねー!」

108: ◆GWARj2QOL2 2016/03/20(日) 19:52:38.63 ID:GmyKmbexO
「…は…」

…なんで?

「…はは…」

…もしかして、全部バレてたん?

「…」

…なんちゅうお人なんやろか。

…オマケに、あの姫川っちゅう女の方にバレへんよう、電源が切れるんを待ってたっちゅうこと?

「…アカン」

アカンわぁ。

…あないなことされたら。

「…もうウチたまらんわぁ…」

109: ◆GWARj2QOL2 2016/03/20(日) 19:53:38.62 ID:GmyKmbexO
6時間後


友紀「…あ゛ー…」

「だいぶ堪えたみたいじゃない」

右京「…おやおや。もうこんな時間でしたか」バッ

友紀「…冷静になって考えたら、昼にまで終わるわけないよねぇ…」

右京「ようやく地に足のついた考え方が出来るようになったということですかねぇ」

友紀「うーん…」

「でもよく頑張った方じゃない。…でも本番でいざこれが出来るかってなったら、分かんないけどねぇ」

友紀「…そういえば、知らない間にステージ作りが凄い進んでる気がします…」

「それだけ集中出来たって事だよ。OKOK!」

右京「頑張っているのは決して君だけではない…。スタッフの皆さんや、工事の方々。皆さんのお力があって初めて仕事というのは完成するんですよ」

友紀「うん…」

右京「君の仕事ぶりは先程まで、自分の為だけに頑張っているように見受けられました。ですがこのように目を向けると、考え方も変わってくるはずです」

友紀「…」

『はいそこー。そこの溝にくっつけてー』

『当日の弁当ってこれで合ってますー?』

『雨天用のテントはこっちにまとめといてー!』

右京「全ては当日のイベントを成功させる為。一人がわがままを言ってしまえばその成功率は大幅に下がります」

友紀「…うん。ごめん…」

右京「「その」気持ちがあるなら必ずイベントは成功する筈です。君は思い込みは強いですが、とても正直で素直な方ですからねぇ」

友紀「褒めるならもっとちゃんと褒めてよー…」

「…そういえばさ、さっきのあの京都弁バリバリの可愛い女の子。あの子いつの間にか居なくなってたね」

友紀「あー…さっきまであの辺で座って見学してましたね…」

右京「…」

友紀「右京さん、何かあの子のこと…嫌がってる?」

右京「嫌がるということはありませんが、彼女は先程、僕達を見ていたというよりは…何か別の事をしていたように見受けられます」

友紀「…別?」

右京「ええ。何でしょうねぇ…」

友紀「…普通にTwitterとかで呟いてたとか?」

右京「彼女が手にしていたのは、携帯電話ではなくメモ帳でした」

「相変わらずよく見てるんだねぇ。さすが大手アイドル事務所のプロデューサーだね」

右京「おやおや。ご期待に添えなくて申し訳ありませんが、僕はそれほど大した人間ではありませんよ」

「またまた…」

友紀「もしかして右京さんって…褒められるの慣れてなかったり?」

右京「慣れていると聞かれると、そうでもないですねぇ」

友紀「…へー…」

右京「どうかされましたか?」

友紀「なーんでもなーいよ?」

110: ◆GWARj2QOL2 2016/03/20(日) 19:55:55.38 ID:GmyKmbexO
「まあ、今日はこれくらいにしようよ。スタッフ帰してあげないと可哀想だから」

友紀「え?…もうこの際あと2、3時間は…」

右京「ここを管理する方もいらっしゃるんですよ。僕らだけで残るというのは無理があるというものです」

友紀「そ、そうなんだ…」

「じゃあ…おーい!そろそろ切り上げてー!今日は終わりにするよー!」

『『はーい!!』』

友紀「みんな、元気だなあ…」

「元気ってより、疲れを見せまいとしてるんじゃないかな。僕に気ぃ遣って」

右京「充実していたのでしょう。…君はどうでしたか?」

友紀「え?あ、うーん…」

右京「?」

友紀「…まだ、よく分かんない」

右京「おやおや…」

「ははは!そんなもんだよ!やっていけば慣れてくって!」

友紀「そ、そんなもんなのかなあ…」

「こういうのはさ、場慣れしていくしかないんだよ。数やって、自分で覚えていくしか上達する方法なんかないって」

右京「ええ。しかし、姫川君」

友紀「?」

右京「マンネリという言葉もあります。それは慣れる、ではなくダレるということ…」

友紀「マンネリ…」

右京「そうならないよう、仕事時は常に気を引き締めて真剣に臨んで下さい」

友紀「は、はいっ」

右京「良い返事です。それでは今日はホテルに戻るとしましょうかねぇ」

友紀「うん!あー!お腹空いたー!」

右京「おやおや。もう気が緩んでいますよ?」

友紀「あ…」

「ははは!そりゃ終わった時はみんなそうだって!」

111: ◆GWARj2QOL2 2016/03/20(日) 19:56:44.50 ID:GmyKmbexO
右京「では許しも出た事です。野球は観れませんでしたが、一日の終わりに少しだけ乾杯するとしましょうか」

友紀「え…い、いいの?」

右京「君が、宜しければ」

友紀「う、うん!行くよ!行く!」

右京「そうですか。では行きましょう」

「僕も行きたいところだけど、奥さんがうるさいからねぇ…」

右京「それは残念ですねぇ」

友紀「右京さーん!行くよー!」

「あーあ。もうあんなにはしゃいじゃって。…まるで親子だねぇ」

右京「…親子、ですか」

「うん。親子」

右京「そうですか…」

「どうかした?」

右京「いいえ。お疲れ様でした」

「うん。じゃあまた明日宜しくね」

右京「ええ。お疲れ様でした」

友紀「ほら行くよー!早くー!」

?『右京さーん!先行っちまいますよー!』

右京「…」

第三話 終

115: ◆GWARj2QOL2 2016/03/20(日) 21:08:50.91 ID:GmyKmbexO
言うの忘れてました
紗枝Pさんごめんなさい

116: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/20(日) 21:13:10.65 ID:tUN4gwD4o
この紗枝嫌いじゃないぞw
基本箱入りお嬢様なんだから、こうなっていてもおかしくないだろ

117: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/20(日) 21:35:26.39 ID:fFSMmqxVO
ただの箱入りお嬢様が盗聴機まで仕掛けるというのは、些か無理がありますねぇ

118: ◆GWARj2QOL2 2016/03/20(日) 21:39:36.44 ID:GmyKmbexO
>>117
携帯を複数持ち歩いてて、その一つを盗聴器代わりにしたということで…

119: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/20(日) 21:41:56.30 ID:5UqJuoPyo
通話状態にして友紀のバッグに放り込んで、もうひとつの電話で聞いてたってことか

122: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/20(日) 21:54:51.14 ID:mKUMPAkuo
おつ
続きが気になる

123: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 10:34:48.66 ID:xsRr2RVq0
過去最長の相棒ssになりそうな予感がするな